あの人のトライ:偶偶GUUGUU 畑克敏さん
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2023年10月、名鉄東岡崎駅から籠田公園までの道中にあるビル1棟を丸々使って、まちの中継所的スポット「偶偶GUUGUU」が始まります。ビル1階には、ジェラート屋・シェアキッチン・出版社が、2、3階には市民グループや建築設計事務所、イベント企画会社のオフィスが入るそうです。
「ここに来てみたら、偶然なにかあるかも」がキャッチコピーとなる偶偶GUUGUUとは、一体どのような場所なのでしょうか?プロジェクトを主導している「studio36一級建築士事務所」共同代表兼「株式会社南康生家守舎」代表の畑克敏さんにお話をうかがいました。
急な決断から始まった偶偶GUUGUU
以前のあの人のトライでもご紹介したstudio36ですが、コロナ禍だった3年前から、畑さんは入居できるオフィス物件を探していました。
建築設計事務所って、お客さんから依頼があって初めて僕らの腕が振るえる受身な業態なんですよ。このエリアにお店が増えてほしいなと思っていても、お店を始めたいと思っている人とのつながりがないと次につながらない。だからこそ、人とのつながりが直接生まれるようなオープンな場で、まちの様々なコンテンツを組み合わせながら事務所を構えたいと構想していました。
また、同時期にQURUWA戦略課(現、まちづくり推進課QURUWA戦略係)の中川さん、7町・広域連合会事務局の筒井さんと、南康生の空き家の状況などを定期的に話し合うようになりました。これがのちの株式会社南康生家守舎となります。
2022年11月、筒井さんから「空き家になりそうな物件があり、オーナーから今後の活用について相談されている」と畑さんに話がありました。その時はまだ居住中だったため建物の中は確認できなかったようですが、「丘の途中のマーケット」の定期開催などすでに活動し始めていた中央緑道沿いに物件が立地していたこともあり、ビルを借りることをすぐさま決断した畑さん。急遽QURUWAエリアに「場」を構えることとなり、ここから偶偶GUUGUUの計画が始まりました。
偶偶GUUGUUメンバーについて
ビルを借りることが決まったタイミングと同時期に開催していた「QURUWA事業リノベーションスクール(事業リノスク)」で、事務局を担当していた畑さんも他の参加者同様、事業プレゼンをすることに急遽なりました。これを機会にと、畑さんはプロジェクトの体制や予算やスケジュールなどの事業概要を一気に具体化させました。
その際に声をかけたパートナー候補の1社が、事業リノスクでジェラート屋の事業計画を進めていた食品卸会社の「株式会社マルサ」です。
マルサさんは、県内の農家さんから直接仕入れた野菜や果物をジェラートに使用しているんですよ。QURUWA内のコンテンツには数に限りがあるので、QURUWAの外の方とつながりが生まれることがおもしろいなと思っていて。あと、ジェラートは外から来た方が食べに来てくれると思ったので、偶偶GUUGUUと来街者との接点を期待してマルサさんの「オーカジェラート」に声をかけました。
続けて、ジェラート屋の隣、1階奥をシェアキッチンにした理由について語ってくれました。
とんかつやワインの「とんかつ しば太」さん、お抹茶や甘味の「INASE(稲垣石材店)」さんらに平日出店頂く予定です。週末は、ポップアップでいろんな方に利用して頂きたいと思っています。ちないにINASEさんも事業リノスク参加者で、スクール内で事業内容を一緒に検討していきました。
このエリアへの出店に興味をお持ちの飲食店の方々にヒアリングしてみたら、週7日で出店する方はまだ少なく、週1〜2日であれば出店するよという方が多いことがわかり、であれば週1〜2営業のお店3〜4組に出店いただけたら結果的に毎日開いているお店ができると思い、シェアキッチンにしました。いずれはQURUWAエリア内に週7日営業の飲食店を構えてほしいと期待していますが、まずは何か始めてみる場になればと思っています。
乙川を拠点に活動する市民グループ「ONE RIVER」は、メインフィールドである川ではなくまちなかに拠点をということで、3階にオフィスを構えることに。また、岡崎出身の24歳20人で結成されたクリエイティブグループ「Tanconaf(タンコナフ)」も2階にオフィステナントを置くことになり、3〜40代だけでなく、若い世代も偶偶GUUGUUの一員となりました。
そして、1階に「偶偶出版 編集室」、2階にstudio36が入ります。
「ここに来てみたら、偶然なにかあるかも」
1階のジェラート屋の店先を、駐車場ではなく外で食べられるよう客席にしているのは、下校途中の高校生たちにふらっと立ち寄ってほしいという願いが込められているそうです。
今40代でこのエリアで面白いことを仕掛けている人って、10代、20代の時にこの辺りで良くも悪くもいろんな思い出があるから、いつか康生で何かやろうって始めた方が多いんですよ。高校生や若い子たちにとっての「原風景」をまちなかにつくる、そのきっかけのひとつになりたいと思ってます。
ビルに入っている事業者たちは、業種も世代もバラバラ。そこには「偶然」のつながりをつくるために畑さんの思いが込められています。
事務所でドアを開けて作業をしていると、上の階に上がっていくONE RIVERさんが関係者の方を紹介してくれたり、ONE RIVERさんもドアを開けて作業されているので、屋上に上がる時にstudio36の関係者を紹介したり、自然と関係者同士が繋がっていくのが心地よいです。あとは、ジェラートを食べにきた高校生が、まちでおもしろいことをしている大人たちとつながることができたら、とも思っています。「ここに来てみたら、偶然なにかあるかも」と思ってもらえるような、つながりが生まれる場にしたいんです。
「点」ではなく「エリア」を見る
もともと、畑さんは「丘の途中のビル(=丘ビル)プロジェクト」と称して企画構想を進めていたそうなのですが、グラフィックデザイナーである「ケルンデザインオフィス」の岡田侑大さんから、「畑さんは『エリア』をずっと見ているのに、ビルという言葉を使うんですね。ビルって『点』じゃないですか。」と伝えられ、名称を再考し現在の名前になりました。
岡田さんが仰っていたように、「点」ではなく「エリア」を見ている畑さんは、株式会社南康生家守舎のメンバーとともに昨年末、「エリアビジョン」を作成しました。
偶偶GUUGUUが、このエリアビジョンを具体化させるための最初の一手であると畑さんは言います。
エリアとして面白くするために、今打てる「点」を常に考えています。その「点」をだんだんと増やし、「点の打ち方」を変えていく。偶偶GUUGUUは「エリア」を見たときに、このまちに必要だと思ったから始めたんです。
また、QURUWAエリアで増やしていきたい人物像について語ってくれました。
もちろん、このまちにお金を落としてくれる「おもしろがる人(消費者)」は、商売の観点から見ると必要です。でも僕たちは、「おもしろがらせる人(プレイヤー)」をもっともっと増やしていきたいんです。
最後に、畑さんがまちのことを思ってアクションを起こし続けている原動力について話してくれました。
いろんな偶然が重なり、縁が繋がって偶偶はスタートできたのですが、外から来た自分を受け入れてくれた地域の方にとても感謝しているんです。8年前に岡崎に来たときは知人友人は一人もいなくて、全員が初めましての中で暮らし始めたのですが、最近、地域の方から「来た頃はとても不安そうな顔をしてたよ」と言われます笑。続けて「頼りにしてるよ」とも言って頂けて、とても嬉しいなあと。
今後は、僕のような外から来た人(よそ者)も含めて、いろんな人にこのエリアに関わってもらえたら嬉しいですし、そのような場づくりが僕の役割だったらいいなと思っています。
インタビューの中で、「きっかけになれたら」、「つながりが生まれたら」という言葉を何度も使っていた畑さん。偶偶GUUGUUには、そんな畑さんの思いがハード・ソフトどちらの面にもぎゅっと詰められています。この場所からどんなイノベーションが生まれていくのでしょうか。まちで暮らす一人としても、同じプレイヤーとしても楽しみでなりません。
畑克敏
1981年兵庫県丹波市生まれ。近畿大学大学院修士課程修了(建築学)。藤村龍至建築設計事務所(現RFA)の黎明期に様々な用途や規模の建築設計に従事したのち、東洋大学建築学科の設計助手として、設計教育に加えて、産官学連携の「鶴ヶ島プロジェクト」「大宮プロジェクト」等に関わる。2015年に「RF地区整備事業(QURUWA戦略)」の開始と共に岡崎市に移住し、QURUWA関連プロジェクトのコーディネート等に従事したのち、studio36を共同設立。現在、南康生エリアを中心に、家守として子育て広場やコミュニティ寮を準備中。
文章・写真:平良涼花(Okazaki Micro Hotel ANGLE)
公開日:2023.10.13