岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:WEDDING LAPPLE 東佐江子さん、東浩二さん 

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結婚式を挙げたいお客様への接客、式の詳細を決める打ち合わせ、そして当日の式に必要な備品と人材の手配や管理等を含めて、総合的にサポートをおこなう「ウェディングプランナー」という仕事があります。 

そして、式場やコーディネート会社に所属する一般的なウェディングプランナーに対して、フリープランナーは場所を持たない分、さまざまな場所で自由なプランをつくることができるという特徴をもっています。愛知県を拠点にオリジナルウェディングを手がけるフリープランナーチームに、「WEDDING LAPPLE(以下:ウェディングラップル)」があります。最近では「三河の門出屋」という取り組みも始めた、ウェディングラップルの東佐江子さんと東浩二さんご夫婦にお話をうかがいました。 

二人がプランナーを志すまで 

岡崎市で生まれ育った佐江子さん。高校の進路を決めるときに雑誌で見たウェディングプランナーという仕事に惹かれ、名古屋の専門学校に通うことにしました。2年間勉強しながら市内の結婚式場でアルバイトをし、卒業後の2005年にはプランナーとして、地元岡崎の結婚式場に立ち上げメンバーとして関わることになります。 

式場によってはそれぞれ業務を分担していくところもある中、お客様が来店された際の打ち合わせから、当日の立ち合いまで一貫して担当できたことはとても大事な経験でした。お客様との一体感も生まれるし、大事な日に二人で喜んでいる姿を見られてすごく感動するんです。そのやりがいが、今もプランナーを続けているモチベーションになっています。

佐江子さん

一方、三重県熊野地方で生まれ育った浩二さん。高校生のときにお姉さんの結婚式で一度打ち合わせに同行し、当日の式でも感動したことを印象的なエピソードとして話してくださいました。進路としてウェディングの専門学校に通うことを考えますが、男性で志す人が少ないこともあって、一度は一般大学にいこうと決意。しかし、その後のお兄さんの結婚式での体験で、改めてプランナーを目指すことを決めます。 

お姉ちゃんほどは話さない関係だったけれど式を通して、やっぱりもっと喋っておけばよかったなと、この先もっと話す機会が減ってしまうことを思うと後悔や寂しさが込み上げてきました。兄のことを大切に思っている気持ちに気づいて、すごく泣けてきちゃったんですよね。きっと私と同じように、結婚式でさまざまな感情を抱く方がいて、涙も笑顔もたくさん生まれる日に携わりたいとウエディングプランナーになる決意が固まりました。 

浩二さん

その後浩二さんは1年間、結婚式場でアルバイトを経験しウェディングプランナーにも会社によって業務内容が異なることを知ります。 多くの会場では、会場案内や打ち合わせなど分担制を取っていますが、最初の出会いから当日も一番近くで携わることを大事にしたいと感じるように。 企業研究をしているときに、理想的なウェディングプランナーの働き方を掲げている会社と出会い、無事に採用してもらえたことが人生のターニングポイントに。  

実は、その会社の1年先に佐江子さんが入社しており、それがお二人の出会いでした。そして出会って5年後、浩二さんが支配人を務めていた豊田市の式場で結婚式をあげました。 

東浩二さんと東佐江子さん

ウェディングラップル立ち上げと街との関わり 

佐江子さんは2015年に会社を辞めてフリープランナーとして独立します。式場でのウェディングはもちろん、小規模の家族式などのプロデュースをし、紹介や口コミ、SNSを通して少しずつ話題が広がりつつあった中で、妊娠出産と子育てで1年活動を休止します。 

そして、2016年の再スタートに際して、佐江子さんはオリジナルの挙式の形「心誓式(しんせいしき)」を始めました。これは自分や相手の心に誓いを立てる式で、どんな言葉で誓うか二人とつくるところから始めるもの。 

2022年の春には QURUWAエリアで、地域の新たな魅力を発見できるコンテンツをちりばめた「QURUWAと暮らす」というイベントの一環でも、乙川に架かる桜城橋を舞台に岡崎市の額田地区にあるお茶の産地問屋、宮ザキ園の清め茶を使った心誓式をおこないました。 

桜城橋での「心誓式」

 そんな心誓式というアイデアはどうやって生まれたのでしょうか? 

披露宴ではなく「挙式ってそもそもなんだろう?」と考えた時に、誓いを立てて、二人が新たな一歩を踏み出す日だから、新郎新婦だけでも成立するのではと思ったんです。その一方で、二人を見守る人がいることで安心もするし、応援もしたくなるから、ゲストがいる結婚式の中に入れることもあります。

佐江子さん

佐江子さんの言葉に、浩二さんもこのように続けます。 

披露宴のパーティ部分をメインで考えている方が多くて、挙式はなかなかフォーカスされないんですよね。新規接客で会場案内をしているときも「挙式ってどれも同じですよね」っていう声がすごく多かった。でも、自分たちの実体験もあって、挙式をもっと大事にしたいと思ったんです。僕たちの結婚式で、挙式会場のチャペルでゲストが座っている方を振り返ったときに「結婚するんだ」っていう実感が1番沸いたし、佐江子さんも同じ価値観だった。でも誓いの言葉だけは、時間がなくて当日の朝にテンプレート通りの言葉で書いちゃったんですよね……。いま考えるとそれって絶対やっちゃ駄目なことなんです。その時の後悔もあって、「心誓式」をつくって挙式の大切さも伝えていきたいと思ったんです。 

浩二さん

そんな中で出会ったのが、籠田公園近くで現在「Okazaki Micro Hotel ANGLE」を経営する飯田圭さんでした。佐江子さんが結婚式のできる場所を探して、能見通り沿いのシェアオフィス・コワーキングスペース「Camping Office Osoto」でも何かできないかと企画書を持っていったときに出会ったのが、飯田さんでした。 

ちょうど飯田さんが自身の結婚式を挙げたいと考えているタイミングだったため、とんとん拍子に「乙川ウェディング」が決まっていきます。それは、岡崎のシンボルとして愛されている乙川の河川敷を舞台にした大規模なアウトドアウェディングで、佐江子さんがプランニングしました。 

この機会は東さんご夫婦にとっても大きなターニングポイントのひとつになりました。佐江子さんは、こう語ります。 

式に100人規模の人が集まる人望も人脈もある二人だったから、セルフプロデュースでも楽しいイベントをつくれてしまう。それゆえ、ラップルとしての自分たちの介在価値や関わる意味を深く考えました。「周りの大切な人たちに、ちゃんと思いが伝わる場面」そして「二人がこの場所で共に生きていくことを宣言する時間」をつくること。忙しいと考える時間も準備もなかなかできないけど、確かにそれが必要なんだよ、と言い続けてリードしていく。そこが「イベントのディレクション」と「ウェディング」との違いだと思ったんです。

佐江子さん
「乙川ウェディング」の様子

自分たちの関わり方を明確にして、どんなウェディングを考えていったのでしょうか? 

乙川ウェディングでは、このまちを大好きな二人に対して、集まった人たちが心をひとつにして「おめでとう」を言いたくなる場面づくりを心がけました。そして、そのためにはどんな要素が必要かを考えました。二人がこのまちで真剣に暮らしていく、という誓いを真剣に伝えたら、きっとみんなの心が動く。式の最後に乙川の広い川辺と青空のもとで、みんなでバルーンリリースをすることにしました。 

佐江子さん

2019年当時は1人でウェディングラップルのプランナーをしていた佐江子さん。その光景を準備段階から見守っていた浩二さんの心にも火がつきます。 

僕は当時、前職の会社で支配人やマネージャーという管理側になっていたのですが、やっぱり現場がすごく好きだったんです。乙川ウェディングに準備のお手伝いで行ったときには、人の繋がりが生まれて、地元の方たちと一緒に1つのシーンをつくっている佐江子さんの姿を見てとても羨ましかった。あとは、子どもが生まれたので子育ても家庭も大事にしたい、その時間をつくりたいと考えていたんです。 

浩二さん

そうして、2020年に浩二さんが会社を辞めてウェディングラップルに加入し、共に動けるようになったことで、設備の設営や音響操作など自分たちだけでも家族式ができるようになり、引き受けられる規模が拡大していったそうです。 

日常にある瞬間も大切にした「三河の門出屋」をはじめる 

ウェディングラップルが結婚式に特化したプロデュースをしているのに対して、2021年からは「三河の門出屋」として、成人式の前撮りのディレクション、入社式や企業の周年パーティーなどのプロデュースも始めました。それは、生まれてから死ぬまでの人生の中、日常にもスポットを当ててそれを豊かにする時間をつくりたいと考えての広がりでした。 

門出屋での映像やメイクや衣装といったクリエイター陣は、地元の人ばかりだそうです。 

そして「住んでいても知らない地元のことを自分たちも知りたい」と、三河で笑顔が生まれる瞬間、その職人さんのような「笑顔職人」に話を聞くというコンセプトのもとに、このエリアにフォーカスを当てたYouTube撮影もスタート。 

「三河の門出屋」の撮影風景 

そうして少しずつ事業を大きくしている中、2023年7月から12月の間に浩二さんは「QURUWA事業リノベーションスクール(事業リノスク)」にも参加します。 

1月に、まちに必要な取り組みを提案・企画・協議する会議体「次世代の会」に出席し、結婚式に関するマルシェの出店時に市役所の方に声をかけてもらったことがきっかけでした。もっと三河の門出屋を広げていきたいという思い、まちの人と新しいことをやりたい、それが出来そうだと思って参加しました。

浩二さん

そして実際に、事業リノスクで出会った会社の方から、「170人規模の社員忘年会も兼ねた、会長の退任パーティーをしたい」と会場が決まって進行も形がほぼできていた中、司会メインでお声掛けをいただいたそうです。 

事前に会長とお話をして、どんな思いで会社を継いだのかなどをうかがい、ただのパーティーではなく、ありがとうの気持ちを伝える時間をつくりましょうとお話ししました。代表の方々から会長にメッセージとともに花を贈る時間があり、想いが通じ合い号泣される会長の姿がありました。社員と会長が心を通わせられる瞬間が生まれ、結婚式とはまた違う感動がありましたね。 

浩二さん

佐江子さんもこのように続けます。 

式典の運営をするのではなく「伝わる場」をつくる。考え方は結婚式と一緒なんですよ。 
ただの楽しい思い出の日ではなく、大事な人があつまる節目で、想いを伝えるきっかけや機会、それが体感できる時間をつくるのが私たちのプロデュースだと思っています。
 

佐江子さん

実は愛知県で結婚式のプロデュース会社、フリープランナーはまだまだ少ないそうです。一般的に結婚式を考える人は、まず結婚情報誌を買って結婚式場を見に行くというのが多い中、認知がまだされてないこともあって、自分たちの存在を知ってもらうことを考えて、門出屋としてのイベントを企画したり、外に出て行っていると浩二さんは語ってくれました。 

例えば、乙川沿いの喫茶スモーコで「家族の今を残す」写真撮影に加えて、大事な方に届けたい気持ちを手紙にするイベントをおこないました。まずは僕たちの地元の身近な方に、結婚式を含めたプロデュースをやってる人がいるんだと知ってもらいたい。そして、周りの方が結婚する時には紹介してもらえると嬉しいと思っています。 

浩二さん
イベントでの撮影風景

今後の展望 

そして、今年は三河以外の方にも三河の価値を感じてもらえるように、ロケーションと体験価値を提供するプロデュースができることを伝えていきたい、それを「in三河」というブランドとして確立させたいと二人は語ります。 

例えば、奥三河にもエリアを広げて、三河の自然を生かした場所で結婚式をする、景色を感じながら思いの通い合う時間をつくる、ロケーションが1つのおもてなしという考え方のサービスをつくりたいそうです。 

また、プランナーが1人だと、対応できるお客様の数が限られてしまうことを感じていた佐江子さん。昨年はよい出会いがあり、2人のメンバーが増えました。一人は前職の結婚式場のつながりで入ったプランナー経験者。もう一人は、去年の12月年末に会社を辞めてプランナーデビューを目指している業界未経験者。実は後者は乙川ウェディングで音楽を披露していたグループの関係者で、その会場に来ていた人だったそうです。 

左から)東佐江子さん、福岡かほるさん、黒沢拓朗さん、西山ののかさん、東浩二さん

ラップル(Lapple)って、ラブアンドピーポー(Love & People)を足した造語なんですよ。愛と人。結婚する人だけじゃなくて一緒に働く方達にもその愛を感じてもらえるチームにしたいと思ってつけました。 

浩二さん

そう語る浩二さんに続けて、佐江子さんもこのように語ってくれました。 

私たちは本当にお客様だけでなく、つくり手にも恵まれてきたんだなと思っています。プランナーだけでなく、メイク、カメラマン、映像、衣装、お花などの装飾、司会の方。みんなで「同じ方向に向かって一緒につくっていこう」という一丸になる感じにすごく支えられています。

佐江子さん
お客様とラップル、それを支えるクリエイターのみなさん

「依頼してくれた方への贈り物だから、自分達が直接的にPRするものではないと思っているんですけど……」そう前置きをして、ひっそり教えてくれた佐江子さんの言葉。 

お客様が「その日みんなにお祝いしてもらった」って、心から実感してもらう体感を提供するのが自分達のミッションだと思っているんです。「あの時があったから自分の人生って本当に豊かだったよね」って振り返ってそう思える日をつくりたいから、手段は、結婚式場でやってもいいし、花嫁姿をお披露目するフォトウェディングでもいいんです。「みんなで集まって何かを伝えませんか?」「そういうことを生き方として選択していきませんか?」と後押しをするチームが私たちだと思っています。 

佐江子さん

そんなさりげない心遣いと、力強さを持つチームだからこそ、いま大きな広がりが生まれているのだと感じました。 

東佐江子 
1984年8月生まれ 生まれも育ちも岡崎。10年間勤めた結婚式場から、もっと自由なウェディングスタイルを追求したいと独立。2013年のリクルート主催プランニングコンテストでは全国8名の最終選考に残りクリエイティブ賞を受賞。CBCテレビ「チャント!」の取材を受けた際には「人情プランナー」と称されるほど、想いの汲み取り方を大事にしている。向上心、探究心は周りからも驚かれるほど。
 

東浩二 
1983年10月生まれ 三重県の世界遺産でもある熊野地方出身。大自然に囲まれた過ごした学生時代は宝物。WEDDING LAPPLEを2023年には法人化。結婚式だけではなく、日常にスポットをあてて人生を豊かにする取り組みを「三河の門出屋」で体現中。男性女性に関わらず、仕事と家庭の両立ができることを証明したいと、ウェディング業界では珍しい日曜日定休を掲げているのは、子どもの成長にも夫婦で携わっていきたいという想いから。 

ウェディングラップル 
https://www.instagram.com/wedding_lapple/?hl=ja

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三河の門出屋 
https://www.instagram.com/mikawa_lapple/
https://www.youtube.com/@user-dn5fx1iq7u

公開日:2024.02.08