あの人のトライ:Micro Hotel ANGLE 飯田圭さん

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岡崎市にある籠田公園のすぐ近くに位置する「Micro Hotel ANGLE(以下:アングル)」。市内で一番古かったカメラ屋をリノベーションし、「暮らし“感光”」をテーマに、岡崎を訪れた方とまちの方が出会い、化学反応を起こす宿を経営しています。

まちの入り口として、人々の暮らしと商いをつなげる「アングル」。今回は、アングルのオーナー飯田圭さんにこの場を選び、これまでつくりあげてきたアングルについてお話をお伺いしました。

アングルの大家さんである太田商店の太田敏子さんと、飯田さんの対談記事もぜひご覧ください。
https://quruwa.jp/people/try_ota_iida/

山梨県出身のサッカー少年|地域の文化に魅了されたきっかけ

1989年生まれ、山梨県出身の飯田圭さん。

大学入学とともに東京に上京。青山学院大学総合文化政策学部にサッカー推薦で入学し、大学を卒業するまではサッカーに打ち込んでいたといいます。

大学の体育会サッカー部時代

サッカー一筋のサッカー少年でしたが、大学の学部の授業やゼミの先生との出会いで「地域」に興味を持つようになりました。ゼミの先生は、長野県の諏訪のお祭りをはじめとするさまざまな地域に入り込んで研究していた方。そのゼミの先生の影響を受け、『地域の文化がどう残っていくか』に興味が湧き始めました。

大学のゼミをきっかけに、地域の文化の存続と地場産業が深く関係しているのではないかと考えた飯田さん。さらに地域の情報を持っているのは銀行であり、可能性も大いにあると考え、山梨中央銀行に就職しました。

地域の情報を組み合わせて新しい価値を創造したり、可能性ある地場産業に融資をしたり、事業者同士をつなぎ合わせて新しいことを起こしたり……自分にしかできない価値を地域の方々に提供したいと思っていました。

しかし、会社から求められる日々の営業目標や数字と自分が考える地域にとって大切なことや自分のやりたいこととのギャップに悩んでいたこともあったそう。

「このままでは何もできずに終わってしまう……」「自分が本当にやりたいことってなんだろう」と焦りや不安も出てきたころ、何かすがるような思いで、仕事外の活動にも力を入れ始めました。甲府市でおこなっていた空き家を改装してアートを展示する「こうふのまちの芸術祭」や、産地をめぐり地域を楽しむイベント「ワインツーリズムやまなし」などに携わるようになりました。

仕事以外で取り組んでた地域でのイベント

イベントを通して、地域で面白い事業を起こしている方々と出会い、少しずつネットワークを広げることができました。また自分から行動してみることで、視野が広がった感覚がありましたね。

岡崎との出会い・旅好きな視点から見えたローカルの魅力

約5年間勤めた山梨中央銀行で企業の外回りを担当する中で、「売上や後継者不足といった企業課題を多く聞くものの、具体的解決がなかなかできなかった」と飯田さんは語ります。

そこで飯田さんが目をつけたのが、中小企業の売上向上に特化することで有名な岡崎ビジネスサポートセンター OKa-Biz(オカビズ)でした。オカビズへの転職がきっかけとなり、飯田さんは愛知県岡崎市に移住します。その中で「自分自身で事業を立ち上げてみたい」「素晴らしいモノや技術を持っている企業や事業者さんと実際に事業者さんと実際に商品をつくってみたい…」という思いが芽生え始めたそうです。

その頃ちょうどスノーピークビジネスソリューションズ(以下:SPBS)の村瀬さんに出会います。飯田さんは銀行時代の課題感や人が集まることで新しいことが生まれる可能性を話す中で、本社にコワーキングスペース(現:Camping Office osoto OKAZAKI)をつくるという構想を聞き、提案の機会をもらって一緒にブラッシュする中で、実際に立ち上げることを任せてもらいました。
また行政が実施していた空き家を改装するリノベーションスクールに参加して、既存のものに新しい視点を加える楽しさにも気づきました。

Camping Office osotoで企画したイベント

飯田さんは、SPBSでの事業をきっかけに徐々に事業の幅を広げていきます。ここからは、飯田さんが最終的に宿にたどり着いたプロセスを語ります。

「自分は何ができるか」「自分がやりたいことは何か」「このまちには何が必要か」を考えました。当時は、県外から来た身として新鮮な視点でまちが見え、地元の人が「普通」と思うものが「当たり前ではない素敵なもの」に見える視点がありました。その視点を活かせば、岡崎の豊かさを旅人に伝えられるかもしれないと考えたんです。

まちの真ん中をゆったりと流れる乙川も魅力のひとつ

自身も旅好きで、よく日本のローカルを旅をしていたと語る飯田さん。だからこそ岡崎のありのままをとらえ、宿の「あり方」にこだわりを持ちます。

岡崎は都会的な文化やサブカルチャー、便利さ、そして自然や伝統、人情味もすぐそばにある不思議さと豊かさを兼ね備えたまちです。徳川家康が生まれた岡崎城・城下町と代々続く企業や商店もありながら、まちづくり事業も行われ、新旧がちょうどよく入り混じっています。車を30分走らせれば額田という自然豊かなまちにも行くことができたり、乙川がまちの中心に流れていたりするのも心地良いと感じますね。

「宿はまちの入り口でありメディア」「普通」の視点を変えるアングル・Park Side Cafeが出来上がるまで

宿は、まちの入り口。岡崎は観光地ではない「暮らし」と「商い」が入り混じった場所。飯田さんはそう続けながら、お店の入口が少しわかりづらかったり、魅力的な場所が見えづらかったりする現状を少しでも宿を通して変えていきたいと語りました。

元カメラ屋をリノベーションしてできたアングルの外観

岡崎は入ってみると本当に良いまちなんです。経済的な豊かさだけでなく、まちとしての豊かさにも魅力を感じています。「まちを伝えるメディアとして宿が存在すれば、このまちはもっと面白くなる」そう信じて、宿を通してメディアの機能をつくりたいと思いました。

また、「旅人だけでなく地域の方々にもアングルにふらっと寄ってもらいたい」。この思いを具現化したのが2021年12月12日、アングルの1階にオープンした「Park Side Cafe」です。

イベントで演出できる非日常的な空間だけでなく、地域の方々が日常的にコーヒーや焼き菓子を楽しめる空間をつくりたいと思ったんです。地域内外の人たちが自然と交わって、日常から広がる空間を提供したいと考えたのが、カフェをオープンしたきっかけでした。

飯田さんがこだわりを見せるアングルの空間。アングルが今の場所にできるまでは、いくつかの苦悩があったものの、多くの人に支えられてここまでつくりあげられたと語ります。

リノベーションスクールで出会ったstudio36のチームが2年以上物件を探すところから、設計・セルフリノベーションをおこなうまで伴走してくれました。 市役所の方々も献身的で。私自身、県外出身でつながりがない中ではありましたが、町内会の総代さんとつないでいただくなどサポートをしていただけました。

さまざまな物件を見てきた中で、最終的に今の土地を選んだ理由も語ります。

元がカメラ屋さんだったストーリーに惹かれました。業態は違っても、このまちを見続け、記憶を残し続けた思いを引き継ぎたいと思ったんです。「文脈を引き継ぐ=地域の文化を守る」ことだと考えています。

見る観光から感じる感光へ|アングルが目指すこれからのビジョン

2023年でオープンして3年目を迎えるアングル。ここからは、創業当時からアングルが大切にしていることと今後の展望を語ります。

ぼくらの「アングル」をきっかけに、岡崎のまちを捉えるマイクロホテル」これがアングルのコンセプトです。「僕ら」 としているのは、アングルにかかわるメンバーだけでなく、アングルが立つ前の建物はカメラ屋だったことを受け継いで、さまざまな人の視点を取り入れたいと思っているからです。

アングルの内装、シンプルだけどこだわりが光る

そういいながら飯田さんは、先代のカメラ屋のオーナーが撮った写真集を見せてくれました。

写真って、撮る人によって角度や視点が変わるのが面白いんです。岡崎という被写体の魅力を県外・市内かかわらず、すべての人の視点を通して写すことができたら良いなと思っています。そんな想いを込めて、アングル(意味:角度・視点)と名付けました。

アングルがもうひとつ大切にしていること。それは、「暮らし“感光”」です。

「暮らし感光」とは、観光地を巡るのではなく、その地域独自の暮らしや食べ物、文化などを楽しむ観光を指します。「見る観光から、感じる感光」(感光:写真用語のひとつ。アングルは「物質が光を受けて反応し、化学変化を起こす」ようにまちの暮らしに光を当てていきたいと考えている)をテーマに、訪れた方とまちの人々が出会い、ちいさな化学変化が起きることを願ってつくりました。

飯田さんがよく散歩する岡崎の好きなスポット

そして最後に飯田さんは、今後の展望も語ります。

まだまだ日常や暮らしを観光することが世の中に浸透していませんが、「暮らし感光」を広めることにより消費されない地域をつくれるのではないかと考えてます。日常や暮らしを観光をすることで、地域の方々に愛着を持ってもらい、「また来たいな」「いずれはここで何かを始めたい」とに思ってもらうことつながると思うからです。

だからこそ、「暮らし感光をより知ってもらえるような取り組みや発信を地域内外の方と連携していきたい」と語る飯田さん。

また、「観光」の先にこの地域で「住む」がつながっているからこそ、宿があるエリアでお試し暮らしができ、よりこのまちと密に関係性がつくれるような住まいを準備しています。さらに、岡崎はまちだけでなく魅力的な中山間エリアがあります。その地域の暮らしや日常を知ってもらえるきっかけをつくるべく、もうひとつの宿を額田地区で190年以上続く酒蔵「柴田酒造場」と準備をしています。

実は創業当時はコロナ禍も重なり、大変な時期もあったアングル。しかしコロナ禍だからこそ愛知県内、中には岡崎市の方が泊まりに来てくれる機会をつくり、視点を変えてまちをとらえるきっかけとなりました。

そして創業・コロナ禍からわずか3年の時を経て、アングルは岡崎のまちに欠かせない存在となりました。

「日常の景色をつくること」。アングルはこれからも、私たちの生活に光を当て、暮らしを観光として楽しませてくれるでしょう。

飯田圭
山梨県笛吹市出身、1989年4月生まれ。青山学院大学総合文化政策学部を卒業しUターンで地元の地方銀行に勤務。同時期に「こうふのまちの芸術祭」参画、空き家を友人と改装し、イベントを多数実施。その後愛知県岡崎市に転職で移住。現在、地域で豊かに働くことを考える場「Camping Office osoto」の企画。元カメラ屋を改装した、6部屋個室の宿「Micro Hotel ANGLE」、宿の1階にあるカフェ「Park Side Cafe」を運営する。また、現在シェアハウスや岡崎市の中山間エリアの額田地区での宿を準備中。

文章:八巻美穂(フリーランスライター)
写真:Okazaki Micro Hotel ANGLE 提供

公開日:2023.07.03

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