あの人のトライ:株式会社FIKA 近藤楓さん

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スウェーデンには、フィーカ(FIKA)という「コーヒー片手にお菓子を食べながら時間を過ごす」文化があります。フィーカは、自分自身と向き合ったり、家族・友人との絆を深めたりする役割があり、スウェーデン人はフィーカの時間を大切にし、こよなく愛しています。

ここQURUWAエリアを拠点にしてフィーカ文化を広げていきたいと取り組む、「株式会社FIKA」という公園管理運営や、カフェ営業、焼菓子・自家焙煎珈琲の製造・販売をおこなう法人があります。株式会社FIKA役員であり、以前のトライでもご紹介した「スコシズツ.マーケット」主催の近藤楓さんにお話をうかがいました。

スウェーデン文化に育てられた幼少期から会社員時代

岡崎市の岩津町で生まれ育った楓さん。楓さんの父・応司さんは、スウェーデンの自動車メーカー「SAAB(サーブ)」が好きだったことをきっかけに、スウェーデン雑貨の収集を始め、スウェーデンに何度も訪れるうちに、スウェーデンに魅了されていったそうです。楓さんの母・かおりさんは、元々イギリスのガーデニングの研究をされていましたが、応司さんの影響を受けてスウェーデンのガーデニングに興味を持ち始め、いつの間にか夫婦揃ってスウェーデン文化の虜に。楓さんは、そんな両親のもとでスウェーデン文化に囲まれて育ったと言います。

県外の外国語大学に進学し、1年休学してアイルランド・イギリスを巡る「食の旅」へ。ファームステイや調理学校を経て、農場から食卓へを意味する「ファームトゥテーブル」を学び、生産者と消費者を結ぶ、「食の向こう側」を伝える人になりたいと決意。まずは、多くの人たちが使うスーパーマーケットで消費者の思考を学びたいと考え、岡山のスーパーに就職しました。

店舗での料理教室やマルシェなどの食育イベント企画・運営、地元生産者や食品メーカーとの交渉、補助金等の書類作成など、業種に縛られず幅広く仕事をこなし、このスーパーマーケットでの会社員時代の経験が、今のビジネススキルに活きていると楓さんは話します。

Uターン後の地元・QURUWAでのトライ

その会社に3年勤め、「自分の形でもっとやってみたい」という思いから退職をし、2020年春、岡崎にUターン。応司さんとかおりさんがガーデンニング業を個人事業主としておこなっていた後に立ち上げた株式会社FIKAにジョインし、地元岩津町にあった事務所横に「北欧の焼き菓子店 コンディトリ」を2020年5月に立ち上げました。

岩津町にあった北欧の焼菓子店 コンディトリ(提供:近藤楓さん)

岡崎市の中心部からは少し離れたエリアで人通りが少ないことや、コロナ禍でのお客さんが着いていない状態でのスタートに苦戦したそうです。

それでも、毎日Instagramを更新し、楓さんが高校生時代からつくり続けていたマフィンの人気に火がついたことから、お客さんに来てもらえるようになったと語ります。

翌年2021年の4月、岡崎市の公園緑地課から声をかけられたことをきっかけに、籠田公園内の出店支援ボックスにて3ヶ月の期間限定出店にトライしました。

ここに出店したおかげでまちに出ることができました。今までは両親が築いた繋がりの中で生きていたけど、営業後によくまちをふらふら散策してて、いろんなお店や人とコネクションができたことが自分にとって大きな財産になったなと思います。

チャレンジ出店の様子(提供:近藤楓さん)

まちとの関わりの中で、環境に配慮した暮らしづくりの提案と、環境や社会の問題について、知る・動くきっかけとなる「スコシズツ.マーケット」を開くことに。そして、QURUWAエリアにて店舗を構えたいと思い立ったその日にまちの人たちに相談をしたところ、器のセレクトショップ「MATOYA」が松本町に移転することから、トントン拍子でMATOYA跡地を引き継ぐことになりました。

ビル3階の珈琲店にトライ

改装工事を応司さんや楓さんの弟がおこない、籠田公園南側に位置するビルの3階で「北欧の珈琲店 オーテル」を2022年4月にオープン。弟が店先に立って切り盛りしたものの、開業当初はかなり苦戦したそうで、そのときの状況を楓さんはこう振り返ります。

「ビルの3階でカフェやるの?」とよく心配されました。ここは、まちの状況に影響を受けやすい。夏場の暑い日とか籠田公園でのイベントがない日は、人通りが少なくなるからお客さんも減る。このエリアでカフェをやる難しさは正直ありました。

スウェーデンの雑貨に囲まれながら北欧の焼き菓子・珈琲を味わうことができる(撮影:平良涼花)

その年の夏に1ヶ月休業し、リセットを目的に楓さんは北軽井沢に修行へ。そののちに籠田公園での「クリスマスマーケット」を開催することに決め、カフェの営業と並行しながらマーケットの準備にも勤しみ、忙しなく動き回りました。

今まで家族だけで経営をしていましたが、業務量の多さからカフェスタッフとして八巻さんを迎えることに。翌年の1月にさらにスタッフを募集し、珈琲豆の焙煎にチャレンジしたいという田中くんもスタッフに加わりました。

八巻さんも田中くんもまちのお店を巡ることを楽しんでいて、少し前の自分を見ているようだったと楓さんは語ります。

オーテルスタッフは、自分から進んでまちを楽しむ人が多くて。その繋がりからお客さんが来てくれたり、こちらから近隣のお店を紹介したり。まちのみんながゆるく繋がっているのが、岡崎っぽいなと思います。

北欧の珈琲店オーテルスタッフ・焙煎士の田中くん(撮影:平良涼花)

オーテル、東京への進出

近藤さんのトライはQURUWAだけではなく、今では東京でもフィーカを広める活動を展開しています。

かおりさんは「公園管理運営士」の資格を持っており、かおりさんが所属する会社が東京都江東区の旧中川水辺公園を管理することに。公園内にカフェをつくるために動き出したものの、立地の悪さから出店者が集まらず、株式会社FIKAがカフェを出すことになったそうです。

急遽決まった東京進出。楓さん自身も東京と岡崎を往復する二拠点生活が始まりました。オープニングスタッフの採用・メニュー考案・コンセプトや内装設計など、多くの業務に追われながらも、スウェーデン出身のジミーさんを店長として迎え2023年5月に「ÅTER tokyo」をオープンしました。

ÅTER tokyo テラス席(提供:近藤楓さん)

今でもよく現地に行ってÅTER tokyoの手伝いをしている楓さん。地元の人だけでなくスウェーデンをはじめ、世界各国の方がお客さんとして来てくれるそうで、国境を超えたおもしろい空間になっているといいます。

スウェーデン出身のスタッフが多いこともあって、会社全体の雰囲気はとても明るいなと思います。スウェーデンの冬はものすごく寒いので、基本的に夏に活動する。だから、夏の時期の「今を楽しむ」という感覚がスウェーデン人はとても強くて、その影響でみんなで明るくやっていこうよっていう意識がありますね。

ファミリーからセミファミリーへ

家族だけで構成されていた会社から、多くのスタッフが加入して感じた変化を楓さんはこう語ります。

家族だけのときは、よく弟と喧嘩してました。私が弟に菓子の製造をお願いするとき、発注・製造の立場の違いから、お互いを思いやれず無理を言ったり、甘えが出てしまったりすることがよくありました。でも、スタッフが入ってくれた事によって、気が引き締まったと思います。それに人手が増えたからこそできることも増えて、喧嘩は少なくなくなりましたね。

続けて、家族・スタッフのことを語ってくれました。

家族とスタッフの間に境界線はなく、株式会社FIKAで働いている全ての人が「セミファミリー」であるという感覚ですね。元々の私たち家族の性格と、スウェーデン人の「今を楽しむ」という感覚がうまくマッチしているんだと思います。ÅTER tokyoの珈琲担当のスタッフと焙煎士の田中くんで焙煎の話で盛り上がったり、スタッフ同士嬉しいことを報告しあったり。血は繋がっていないけどファミリーみたいだなと感じます。

ビル3階の珈琲店から「オーテルタワー」に

「北欧の珈琲店 オーテル」は、オープン当初は苦戦したものの、焙煎士として店を回す田中くんが、お客さん一人一人とのコミュニケーションを大切にする接客を続けていることで、常連さんが増え、まちの人がよく顔を出してくれるカフェになったといいます。

まちのカフェとして段々と定着してきた時期に、北欧の珈琲店 オーテルが入っているビル1階で営業していた飲食店が移転することになり、3階立てのビルを丸々借りることに。お客さんが入りやすくなるようにという思いと、ビル丸ごとがスウェーデンの雰囲気になったらおもしろいなと考え、決断に至ったそうです。

そして、1階は楓さんの弟が主に担当する「北欧食堂モールティド」、2階はもともと岩津にあった事務所を移転させ株式会社FIKAの事務所兼「北欧の焼菓子店コンディトリ」の製造所、3階は変わらず「北欧の珈琲店 オーテル」となり、2024年1月に通称「オーテルタワー」が完成しました。

第2藤村ビル・通称「オーテルタワー」(撮影:平良涼花)

もともと大家さんのお母様がこのビルで喫茶店を営んでいたこともあって、株式会社FIKAの取り組みを一緒に楽しんでくださっていて、ビルの設備や外壁の塗り替えなど、色々な面で応援してくださっているそうです。ビルが水色になったことで「ああ、あのビルね」とさらに多くの方に認識してもらえるようになったといいます。

会社を整える・育てていくために

スタッフが増えて人件費も増えたことから、組織体制の見直し・販路拡大など、売上を上げるための仕組みづくりが、経営の立場として抱える喫緊の課題だといいます。客単価1000円以下の世界から、焼き菓子の卸業・スウェーデン紅茶の輸入販売など業務内容が発展していくうちに扱う金額の桁が変わり、意識が変わったと楓さんはいいます。

エネルギーの使い方を考えるようになりました。その事業をおこなう意味だとか、割く時間だとか。それは私だけでなく、スタッフみんなも考えられるようにスタッフ内でもコミュニケーションを取れるようにしています。
「夏はこうした方がいい」とか、「田中くんが焙煎した珈琲豆が好評だったよ」とか、東京・岡崎関係なく意見を交換したり、思ったことを共有したりするようにしています。
結局は、お店のファンをどれだけ増やすかだと思うので、スタッフ間のコミュニケーションがファンづくりに活きたらいいなと思います。

株式会社FIKAのこれからの目指す姿を教えてくれました。

自分たちだけで大きくなっていこうっていうことはあまり考えていないですね。今は、東京に進出したことによる繋がりや、「スウェーデン」という言葉をキーワードにいろんな人・会社と手を組んで事業が進められるようになったので、他業種の方とコラボレーションして、もっといろんな人にスウェーデン文化を届けていきたいなと思っています。
株式会社FIKAとして、日本でフィーカの文化をいろんな形でいろんな人とつくれたらおもしろそう。

楓さん個人の描いている未来も教えていただきました。

正直、やらなきゃいけないことが多すぎて、今は本当に大変。だけど、まちのお世話になっている人にはよく「今こういうことをしているんだ」と報告をしているので、みんな見守っていてくれることが頼もしいです。でも私はまだ30歳。あと5年頑張ればこれだけ頑張ってきたというキャリアが自分に蓄積されていくし、絶対に自信になるはず。そうやってがんばっていく中で、仕事と休暇を両立した生活を送りたいなと思っています。

オーテルタワー1階「北欧食堂 モールティド」の前で(撮影:平良涼花)

スウェーデンに特化している会社であることからさまざまなオファーをいただき、その度に相手の期待に応え続けて今があるといいます。会社としての規模が大きくなりつつも、このまちへの愛着はもちろん、60年近くスウェーデン・ウッデバラとの姉妹都市である岡崎への誇りを持ち続け、今後も岡崎を拠点としてフィーカを広めていきたいと語ってくれました。

このQURUWAエリアには、「コーヒー片手にお菓子を食べながら時間を過ごす」フィーカを楽しむ土壌が整っています。フィーカの本質を伝え、それを体現し続ける「北欧の珈琲店 オーテル」があり、50年以上続く喫茶店や、新しくできたカフェ・コーヒースタンド、籠田公園・中央緑道のベンチなど、フィーカを楽しめるスポットもたくさんあります。

皆さんも、一人で、家族・友人と、職場の同僚とゆったり時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

プロフィール
近藤 楓(こんどう かえで)
北欧の焼菓子店 コンディトリ 店長
北欧の珈琲店 オーテル 店主
岡崎トレッドゴードマーケット 事務局
スコシズツ.プロジェクト 共同代表
株式会社フィーカ COO
合同会社スウェーアフロー 代表

岡崎・岩津生まれ。大学を1年休学し「食」をテーマに欧州各地を旅する。畑から食卓まで、様々な食の景色を見た経験から、「食の向こう側を伝える人」になることが人生の目標に。卒業後は岡山に移住し、3年間食育事業に携わった後、2020年春に岡崎へ帰郷。自然と寄り添う北欧のライフスタイルに学びながら、ゆたかな時間と空間を創造しています。

株式会社フィーカ
https://www.fikadesign.jp
北欧の焼菓子店 コンディトリ
https://www.instagram.com/konditori_japan
北欧の珈琲店 オーテル
https://www.instagram.com/ater_japan
ÅTER tokyo
https://www.instagram.com/ater_tokyo
岡崎トレッドゴードマーケット
https://www.instagram.com/okazaki_tradgard_market
スコシズツ.プロジェクト
https://sukoshizutsu-project.studio.site
https://www.instagram.com/sukoshizutsu.project
https://www.facebook.com/sukoshizutsu.project

文章:平良涼花(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2024.04.30

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