あの人のトライ:太田商店 太田敏子さん(大家)とOkazaki Micro Hotel ANGLE 飯田圭さん(借主)

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2020年6月、康生通り沿いにオープンした「Okazaki Micro Hotel ANGLE」(以下:アングル)の建物は、もともとは「泉崖堂」というカメラ屋でした。「太田商店」を経営する、太田敏子さんのご実家です。閉業した後、飯田圭さんがその物件を借りて、1棟まるごとリノベーション。1階にカフェを併設する、個室6部屋の宿になりました。

「あの人のトライ」の一環として、大家さんである太田さんと借主である飯田さん、お二人にお話をうかがいました。物件を「貸す/借りる」といった新たなトライを皮切りに、QURUWAエリアや岡崎のまちへの想いも話していただきました。

Okazaki Micro Hotel ANGLE(写真:村上写真事務所)

外から見ることで自分たちが普段見ていたもの素晴らしさに気づける

—改めて簡単に自己紹介をお願いします。

太田敏子さん(以下:太田):私はいま岡崎市福岡町で「太田商店」という、卵の販売を中心とする事業をしています。「泉崖堂」は昭和8年から営業していた岡崎で1番古いカメラ屋であり、私の実家です。昔は映画館や楽器屋もあって、この辺りで遊び歩いた記憶があります。ここは自分が生まれた場所という想いもあって、康生通りのファンなんです。

飯田圭さん(以下:飯田):僕は山梨県出身で、5年前に転職がきっかけで岡崎市へ来ました。新しいものも伝統的なものも、文化もカルチャーもあるこのエリアは本当に面白いと感じています。アングルは、暮らしと商いが入り混じるエリアにある小さな宿で「暮らし感光」をテーマにしています。今までの物見遊山的な観光スタイルではなく、岡崎の暮らしに入り込んでもらえるような、新しい観光や旅の形を提案したいと思っています。

—飯田さんはなぜ宿をはじめたのですか?

飯田:「外から来た人に岡崎を知ってもらいたい」というのがひとつあります。たまたま住んだまちですが、人も含めてまちに魅力があるのにそれを伝える手段が少ないと感じました。あとは自分自身、他の地域に行った時にその土地の人にアテンドされることで、解像度高くそのまちを楽しめるという体験をしてきたからですね。泊まってもらうとより長くまちに滞在できて深く知ってもらうことができるし、訪れる人とまちの人を繋ぐ地域の入口になる宿をつくりたかった。
もうひとつ、岡崎に住んでいる人も、その人たちの反応を見て「地元のものがこんなにいいと思ってもらえるんだ」と、もっと自分のまちを好きになる。そんなループができたらと思っています。

太田:私みたいに生まれも育ちも岡崎だと、ここに既にあるものがいいとはすぐに気づけないですよね。飯田さんが山梨からいらっしゃって、あれもこれもいいなというと、岡崎に住んでいる人もそれが素晴らしいんだと気付ける、それはすごく大きいことだなと思っています。

ANGLE1階のカフェ

雑談の中でお互いの想いや背景のやりとりが出来た

—物件を貸す/借りることになった経緯や、その決め手は何でしょうか?

飯田:元がカメラ屋さんだったというストーリーが素敵だと思ったのが決め手ですね。業態は違っても、まちを見続けて来た想いなどを引き継いで宿をつくれたら深みも出るし、地域に馴染むのかなと感じました。空き家だったことは知っていたので、籠田町の町内会会長経由で紹介していただきました。

太田:「泉崖堂」を売る、壊すという話が身内で出たんです。実家が無くなることはとっても哀しいことだし、どうしようと思った時に、飯田さんが現れました。「岡崎に住んでいる人たちしか知らない場所を紹介したい」という話を聞いて、やり方は違うけど、岡崎をみんなに知ってもらいたいという思いが一緒だと感じて、契約に至ったんです。
さらに、建物自体はそのままで「泉崖堂」の名前も外観やビル名で残すという話をしてくださった。カメラ屋だったことを引き継いて、「アングル」という名前をつけていただいたり、うちから出てきたカメラを飾ってくれたり。それが本当に嬉しかったし、とても幸せです。

飯田:太田さんも岡崎のブランド卵を生産するということで、地域のことを大事にしていたり、事業を経営していたり、岡崎への想いを僕も感じました。雑談の中では僕の銀行員時代の話などもしましたし、借りる前も借りた後もいろいろなお話をしていますね。

太田:そうそう!全然知らない人だったけど、話していうちに、繋がる部分が見えて来て、少しずつ近づいていった気がします。飯田さんは山梨出身ですものね。山梨県は日本のワインの生産数産が全国で1位ということも知っていて、ワインを仕入れていたこともあるんです。ご縁だなというのもありました。

太田さんと飯田さん

—「どんな人で、何が好きで、どんな想いがあって」という話がお互いにできたのも大きいのですね。不動産オーナーが、若い人や何かやりたい人に空き店舗を貸していく動きが活発になるにはどうしたらいいのでしょうか?

太田:借りてもすぐ辞めてしまうお店が多いんですよね。貸す側としては、続けてくれるかどうかは気になるし大切です。「辞めないでね」というのは、飯田さんにも1番初めに念押ししちゃいました。契約上は10年だけど、もっとずっと続けて欲しいんです。
そういえば、返す時にどうして欲しいという話は、私たちは一切しませんでしたね!こんなに変えるのに、どうやって元に戻すのだろうと思いましたから。

飯田:そうですね。退去の時に元通りに戻さなくてもいいという文言だけ、契約書には入れていただきました。それもすごく助かっています。普通の空き家は仲介業者の不動産会社が入っていることが多いので、金銭のやりとりや契約に関してのやりやすさがある一方で、雑談はしにくいかもしれない。想いとか人柄は伝わりづらいのかなと思います。

太田:貸してから「しまった!」というのもありますよね。私はそういうことが全くなかったです。

—なるほど!直接やりとりが出来ないケースはいろいろありますね。例えば、親族からその物件を相続して、ご本人は他の土地に住んでいたり。そうすると貸すのも管理するのも大変だし売ろうかな、という話にもなってしまう。この土地で育ったり遊んだりといった思い入れがないこともありますよね。

ここで暮らしているから、賑わいや発展をより喜べる

—最近のお二人の新しいやりとりを教えてください

飯田:最近だとアングルの1階でカフェを始めたんです。焼き菓子の材料で、太田さんが販売されているランニングエッグを使わせてもらったり、太田さんの知り合いがカフェに来てくれたり。ただ物件を借りて、貸しての関係だけではないなと思っています。

太田:実はアングルでお食事ができるようになると、もっと地元の人の出入りができるようになるなと思っていました!販売スペースはあったけれど「アングルに行ってみてください」と言っても、なかなか行きづらいだろうなと。カフェがあれば休憩できるし、入りやすいし。出来てよかったなと思っています。

飯田:ありがとうございます!地元の方にもっと知ってもらえるように、今度回覧板で「モーニングもカフェもやっています」というのを回そうと思っているんです。

太田:それはいいですね!私もアングルはいいですよ、って宣伝したくなっちゃうんですよね。3階のお部屋がすごくいいとか。カフェでお茶できますよとか。始めからこうやって応援することに違和感がなかったんです。飯田さんの人柄もあるし、違う地域の人を呼んだり新しいものを持ってみえたりと、試行錯誤しながら実行しているのを知っているから。

—最後に、QURUWAエリアの変化をどう感じているか、今後の展望も伺いたいです

太田:飯田さんが来た頃には、まだ空き店舗がいっぱいあったけれど、皆さんの力でだんだんなくなって来ているんですよね。閑古鳥で人が歩いていないところから、お食事するところも増えて、若い世代も来るようになって、賑わいができて。またこのまちを歩いてみようかなという感じになってきていると思います。

飯田:ここ2年は特にすごく変化しましたよね。僕としては、岡崎を知ってもらった後、住んでいる人や自分自身も豊かに暮らせるように、もっと新しいお店ができたり、コミュニティができたら面白いなと思っています。

太田敏子さん
株式会社太田商店取締役。Okazaki Micro Hotel ANGLE物件不動産オーナー。籠田町にある岡崎市で最初にできたカメラ屋「泉崖堂」の娘として生まれ、幼少期より康生付近で過ごす。康生で遊ぶことも多く、康生通のファン。ランニングエッグや岡崎おうはんなどの地域ブランドをつくったり、商工会議所女性部の会長を務めたりするなど、岡崎の発展や地域密着の考えで活動を行う。

飯田圭さん
1989年4月生まれ 山梨県笛吹市出身。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、Uターンし、2012年山梨中央銀行にて勤務。同時期に仕事外で地域に関わる活動を始める。2016年1月より転職をきっかけに岡崎に移住。2017年より、スノーピークビジネスソリューションズに関わり、「Camping Office osoto」立ち上げ。現在企画担当。2020年6月、市内で最初に出来た元カメラ屋ビルをリノベーションし、 6部屋個室のマイクロホテル「Okazaki Micro Hotel ANGLE」を立ち上げ。 2021年12月アングル1階に焼き菓子とコーヒーのカフェ「Park Side Cafe」をオープン。

文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2022.04.30

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