あの人のトライ:studio36一級建築士事務所
- 商業施設・住宅を開発する
QURUWAエリアにおける「まち医者的な設計事務所」を目指して2017年に立ち上がった建築設計事務所があります。それが深澤創一さん・深澤愛佳さん・梅村樹さん・畑克敏さん・足立拓哉さんからなる「studio36一級建築士事務所」。「自分たちが描く未来のまちを、自分たちの手で作り出す」ことを目指して、企画・設計・施工・運営・管理までに携わる、岡崎を拠点に活動する建築家集団です。
自分たちが暮らすこのまちに、主体的に仕掛けたい
出会いのきっかけは、共通の建築家の友人でした。当時、まちづくりNPOに所属していた畑さんは、シンポジウムやワークショップに他のメンバーを頻繁に誘っていたと言います。結成のきっかけとなったのは、2017年10月の「Meguru Quruwa」という社会実験。中に入れる本棚「(本のかまくら)」をりぶら内に設置したり、1日だけの屋外展示空間(「風の通り道ポスター展」)をりぶら前プロムナードに出現させて、りぶらからまちへの回遊を促す実験を実施し、周りの人にも「建築ができる人たち」として存在を知ってもらうようになりました。
実はメンバーは、それぞれまちづくりや建築に関わる本業と兼務しています。そのためstudio36では、本業ではできないことや、まちに直接関わることをしようと思っているそうです。建築設計はいわゆる「委託業務」ですが、ただ依頼を待つのではなく、自分たちが暮らすこのまちに主体的に仕掛けたいと考えて、2021年には中央緑道と籠田公園を会場に「丘の途中のマーケット」というマーケットも企画しています。
いまは物件や敷地はあるけど『どう使ったらいいかわからない』という人が実は多いんです。そこに企画から入り込めると面白いことができるし、1人だとできない、みんなとの意見交換で見えてくることがあります
深澤創一さんはチームで動いている良さをこう語りますが、足立さんはこのようにチームであることの意義を伝えてくれました。
studio36って、施主が満足する良い建物を作る事はもちろん、その建物を通じてまちを良くしたいという価値観がメンバーで共有できているのが心地良いですね。完成した後の事も含めた長期的な視点で物事を考えるので、今はお金が伴わなくても先行投資的に取り組める。これってなかなか普通の建築会社では出来ないことだと思っています。
まち医者的な設計事務所でありたい
2017年に設立してから、QURUWAエリアにリノベーションを手掛けた物件が2022年現在で3軒出来ました。そこから認知度もあがり、口コミで少しずつ仕事が増えています。
最近は、畑さんが町内会同士集まって情報交換をする「7町・広域連合会」や「次世代の会」に出席したり、まちのコアな人とつながったりしていることで、空き家などの情報が入るようになったそうです。また、これまで手掛けたお店との交流から「お店を始めたい人がいるから話を聞いてあげて」など、ちょっと相談してみようと声が掛かるようになってきたとも。ただ、嬉しい反面、敷居を下げすぎて何でも話がくるようになったと皆さんは笑います。そんなメンバーの人柄もあり「まち医者的な設計事務所でありたい」という、studio36が目指す形にどんどん近づいていっているのを感じました。
それぞれに、studio36としてまちに関わっていなければ、このエリアをホームのように思えなかったかもしれないと、子育て中のメンバーが口々に語るなか、深澤愛佳さんはこう語ります。
岡崎には、たまたま戻ってきたんです。でも、こうやってまちづくりに関わることで、籠田公園やその周りで遊んだり過ごす時間が増えて。自分も子供も、より愛着を持てるようになりました。友達やその子供たちにも『岡崎っていいね』と、言ってもらえることもあって、魅力を再発見しています
さらに、メンバー5人の先にいる沢山の関係者の視点を取り込んで、それを建築に活かせてもいるそう。「僕にとって、studio36は社会との接点なんです」と畑さん。
例えば、いま企画から関わる「NEKKO OKAZAKI」という案件に、託児所を入れたいと畑さんが思ったのも、メンバーの顔が思い浮かび、自分がまだ経験していない子育ての大変さを思ったから。託児や小学生向けのワークショップをするスペースがあって、さらにクラフトビールのお店があったら、子供たちも自分たちも楽しく過ごしながら打ち合わせできるのでは、と考えたそう。
自分の環境づくりでもありますが、そんなことが年に1回2回でもできたら楽しいじゃないですか。このまちで暮らす自分ごとと、まちに足りないものや、あったらいいなと思うものをつなげて考えています。
まちと人とのつながりを保ったまま、建物を更新することをめざす
今、QURUWAでは公共整備を一通り終え、籠田公園を中心とした小さなエリアに魅力的なコンテンツが集積することで、まちの変化が感じられるようなってきました。これらの動きが周辺エリアと連動して、QURUWA全体に広がっていく将来像も少しずつ見えてきた一方で、老朽化した建物の更新(=建て替え)についても近い将来向き合う必要があると考えているそうです。このエリアには、すでに老朽化が進んでいる建物も多く、10年20年たったら「まちを更新=建物を更新」しないといけません。
「その時に、まちと人とのつながりを保ったまま、建物を更新することが大事だと思っているんです。そのために「まち医者的な設計事務所」として、主体的にこのまちに関わり続けたい」と畑さんは語ります。だからこそ、学生時代に岡崎のまちづくりに関わり、東京の設計事務所で働いて、2021 年4 月から地元の岡崎でstudio36のスタッフをしている、梅村さんの存在は、すごく大きいそうです。
例えば、建物の更新に迫られるのが10年後だとして、梅村くんは30代後半。建築家でいうと、ちょうど油が乗っている頃なんです。その時期に、思いを一緒にする建築家の仲間がこのまちに一人でも多くいたらいいなと思っています。studio36がそういうプラットフォームになれたらいいなとも思っています。
「studio36一級建築士事務所」
自分たちが描く未来のまちを、自分たちの手で作り出すために集まった地元を愛する建築家集団。建築設計に加えて、異なる領域や役割を持ったメンバーが集まることで、「企画~設計~施工~運営・管理」と一貫したプロジェクトを展開中。
https://studio36.jp/
文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)
公開日:2022.03.31