あの人のトライ:檸檬 下里杏奈さん、山田美法さん

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日常にちょっとした「起爆剤」を落とすことをコンセプトに活動をしている、企画編集とデザインのユニット「檸檬」が岡崎にはいます。

檸檬のプロジェクトはさまざまで、岡崎のお店の人たちとデザインを中心にした仕事をしたり、まちで神出鬼没な自主活動のイベントを仕掛けたりしています。デザインでもどこか「ふふっ」となることを入れる。それが全部「檸檬」な活動だと語る、下里杏奈さんと山田美法さんにお話を伺いました。

2人の役割分担は、プロジェクトの前半にあたる企画調整は下里さん、後半のアウトプットと仕上げが山田さん。形だけつくるのではなく、企画編集デザイン含めて最初から携わりたいと考えていて、特に下里さんは「そもそも」を考えたい人なので、時には大元の企画をひっくり返すこともあるそうです。

例えば籠田商店街のパンフレットをつくって欲しいという案件が来た時も、本当に必要ですか?と思うんです。まず商店街のことを知ってもらうには、共通の紙袋をつくったら面白いのでは、と考えました。ケーキショップ「SAPON」もショップカードをつくった後に包装紙の依頼が来たのですが、店主ともしっかり話し合って、もっと軽やかに色々な用途で使えるリボンをつくる提案をしました。

下里さん

こう話す下里さんは、「檸檬」という特徴的な名前の由来とあわせて、こんな思いを聞かせてくれました。

私は、梶井基二郎の『檸檬』という本の一説にあるような、誰も気づかないかもしれない小さなサプライズを仕掛けて、誰か1人でもそれに気づいてひっそり笑ってくれたらいいなという価値観なんです。美法さんはそれに合わせたビジュアルやテキストを考えたり、もっとこうしたら面白くなる、とアイデアを加えて、スパイスをふりかける役割をしてくれています。

下里さん

そんな、わかりやすく説明できない檸檬的な面白がり方を共有できて、一緒に楽しんでくれる人と仕事ができないかなと思っており、関東からも仕事が来ているそうですが、2人を知る岡崎に住んでいる人からの案件が多いと話してくれました。

公共性のあるまちづくりと、自由な自主活動のあいだで

もともと2人が出会ったのは「NPO法人まち育てセンター・りた」のまち育て推進チームでした。

まち育て推進チームは、市民や事業者や行政などの対話と共創の場を企画運営している部署で、岡崎市で2015年度からはじまった、乙川リバーフロント地区整備計画のまちづくりの伴走をしていました。その中で5年計画のおとがわプロジェクトがスタートした後、下里さんは2016年度に新卒で入り、翌年には山田さんが同じく新卒で入りました。

山田さん(左)と下里さん(右)

私は建築科を卒業していて、大学時代から公共空間に関心がありました。りたに入った時はチームに現「studio36」の畑さんしかいなくて、調整も資料づくりもチラシづくりも何でも2人で全部分担していたんです。美法さんが入ってからは、その中でデザインの仕事を任せるようになった感じです。

下里さん

そんな2人がりたで初めて一緒にした仕事は、2017年に発行されたローカルメディア『Q』のオフ会の企画でした。『Q』は、SNSでQURUWAについての投稿を探し、投稿者に連絡して許可を取り、その投稿を掲載させてもらうという独特なフリーペーパーです。

オフ会は、誌面に掲載させてもらった人を招いた籠田公園でのナイトピクニック。お礼も込めてできあがった『Q』を手渡すこともできました。このイベントの企画から案内状や会場準備にいたるまで、後に檸檬となる下里さん山田さんで手掛けました。

大きなサイズで、ポスターとしても扱える『Q』
ナイトピクニックの様子。「Quiet Village」「暴れん坊チキン」「和泉屋」など、近隣のお店の軽食が並ぶ(撮影:前田智恵美さん)

会場装飾では『Q』にも掲載されていた飲食店「小料理屋エキュメ」や「wagamama house」のオードブルを用意したので、どこのお店の料理かわかるように旗を立てました。誰がどの投稿をしたのかわかる名札もつくって、みんなに首からかけてもらいました。この企画を通して、他にも何か一緒にやりたいとお互いが思うようになっていきました。

下里さん

まちづくりの仕事は、行政と一緒にやるので対象は幅広く市民全部になります。色々な立場の人に喜んでもらえることをするので、公共性の重要さや、多くの人と相談してつくることから、企画内容や実施期間、デザインイメージなどに制限が生じてしまうこともあります。

そこから離れてもっと自由にやってみたい、少ない人数にしか届かなくとも関わった人の記憶に残るようなことをつくってみたいという思いから、仕事のかたわらで自分たちの自主活動もおこなっていたと山田さんは語ります。その際につけた活動名が「檸檬」でした。

りた時代からおこなっている自主活動では、「一隆堂ビル」の屋上でビアガーデンを開いたり、「スナック檸檬」をいろいろな場所でおこなっています。駐車場、河川敷、公園といった公共的なところや、街中の軒先にスナックがあると「え?何やっているの?」と驚いてもらえるし、人が交差する場所には予期せぬ出会いが生まれることもあって、そうした檸檬的な「起爆剤」を日常的に仕掛けています。

山田さん
乙川河川敷に出現したスナック檸檬。スナックらしいカーブが特徴的なカウンターは、持ち運びに特化した手作り(撮影:山田拓生さん)

見守ってくれたまちの人たちと共に仕事をしていく

こうした自主企画のみならず、檸檬にはまちの人たちからの依頼仕事も舞い込みはじめました。

at the table est 2015」からは、お菓子のラベルや料理教室の教材のデザイン案件、wagamama houseからは、イベント企画や告知物など、どこも2人が日常的に過ごしたり、ごはんを食べに行ったりしている場所からの依頼でした。例えばwagamama houseの店主りえさんとの会話の中で「環境のために自分ができることをやりたい」という想いを聞いた時に、当時はまだ浸透していなかった紙袋やエコバック、マイ弁当箱などの持参を促すスタンプカードとチラシをつくってアピールしたらどうか、という提案から自然と仕事になっていったと下里さんは語ります。

wagamama houseのりえさんとの会話で生まれた「ハチドリキャンペーン」のチラシ

りたから独立して特に3年くらいはまちのお助け部隊として、困ってる人がいたらなんでもお手伝いしますというマインドでした。そうしたら、美味しいものをおすそわけしてもらえたりして、結果的に持ちつ持たれつというか、むしろ助けてもらっていましたね。小料理屋エキュメの店主ハナさんが産休に入ったときも、当時の夜営業で過ごす時間が好きだったから、「檸檬の夜」と題して週1回、私たち2人で代わりにワインを出すことにしました。

下里さん

檸檬としてやるならただワインを出すだけではなく、自分たちらしい表現や発信も同時にやらなければ、私たちが店頭に立つ意味がないと思ったので、毎回テーマを決め、好きなことを織り交ぜて活動をしていました。写真などの展示をしたり、「ラッキーハッピーキャッチー」とテプラでシールをつくってプレゼントしたり、コミュニケーションのきっかけになるような楽しみをつくるようにしていました。

山田さん

2人が独立した2019年頃の岡崎は、平日に人が歩いているのを見かけるのが珍しいくらいで、りたにいた時から、「どうやったらまちや店に人がくるか」という模索をずっとしてきたそう。現在の賑わいを見ると、「まちは本当に変わるんだ」という実感が大きかったそうです。下里さんはその当時のことを思い出しながらこのように話してくれました。

まちでもまちづくりの現場でも、新卒の若者が2人もいると珍しがられていました。だからみんなにすごく可愛がってもらったし、20代をまちの人に育っててもらったんです。その当時から6年経った今、培ってきた技術でまちのお役に立てればと思っています。

下里さん

檸檬
下里杏奈(写真右)
愛知県岡崎市出身。東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手。現在は関東と岡崎の二拠点で活動しながら、「檸檬」として山田美法と共同で日常に違和感を生み出すことを研究中。
山田美法(写真左)
愛知県豊田市出身。京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業。現在は岡崎市を拠点に「檸檬」として活動しながら、並行して大阪の出版社LLCインセクツで編集業もおこなう。
https://okazaki-lemon-party.tumblr.com/
@okazaki_lemon_party
https://www.instagram.com/okazaki_lemon_party/

公開日:2022.10.05

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