岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:畔柳美智子さん(大家)と野菜日和 鈴村秀夫さん(借主)

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2020年4月に康生通りにオープンした「野菜日和」の建物は、もともとは畔柳美智子さんが経営するクリーニング店でした。鈴村秀夫さんが閉業後の物件を借り、外観は活かしながら店内をリノベーション。東明大寺町にあるビストロ「キッチンベル」の2号店にあたるカフェに生まれ変わりました。

以前Okazaki Micro Hotel ANGLEオーナー飯田さんと、大家である太田さんとの対談をお届けしましたが、お二人に負けず、物件の大家さんである畔柳さんと借主である鈴村さんの信頼関係は深くあります。単に、物件を「貸す/借りる」というだけのビジネスライクな付き合いではなく、二人の出会いからはじまり、QURUWAエリアや岡崎のまちへの想いも話していただきました。

自分ができる範囲、身の丈にあった大きさの仕事にしていく

—簡単に自己紹介をお願いします。

畔柳美智子さん(以下:畔柳):私は山口県下関市生まれで、結婚を機に岡崎に来ました。その嫁ぎ先が戦後から営業している、お酒とたばこを売る「金泉酒店」だったんです。27歳からずっと働いていたけれど、お酒は重いこともあって50歳の時にタバコの販売は残しつつ、クリーニング屋に変えました。2019年に営業を終えた時に、周りの勧めもあって元店舗を貸し出すことにしました。

鈴村秀夫さん(以下:鈴村):僕は岡崎で生まれ育ちました。25歳で脱サラして料理の世界に入り、2011年に「キッチンベル」をオープンして、2019年に野菜日和を立ち上げるためにこちらをお借りしました。
野菜日和の食材は地産地消を目指していて、地元の農家さん中心に仕入れている野菜は無農薬・有機栽培のものです。野菜を売りにしたのは、それに特化したお店は多くなかったし、「キッチンベル」開業3〜4年目に、面白いかなと思って少しずつ取り入れるようになったのがきっかけです。野菜の良さを伝えるために、僕自身「野菜&フルーツアドバイザー」「ナチュラルフードコーディネーター」という資格を取得しています。

本日の野菜日和ランチプレート

—鈴村さんは、なぜ2店舗目をこのエリアに出店したのですか?

鈴村:当時「キッチンベル」のステップアップとして、移転して大きくするか2店舗目を出すか悩んでいました。いろいろな人に相談した時に、前者だとスタッフがいないと回せないくらい大規模になることも考えられたので、母体の1店舗目をしっかり営業していけば、2店舗目もどうにかなると後者を選びました。
2018年からずっと商業エリアのJR岡崎駅付近か康生付近で、1店舗目と同じくらいの規模で物件を探していました。郊外に行けば駐車場があるけれど家賃も上がるから、長く続けるために自分の身の丈にあったサイズ感がいいと思ったんです。
僕は自分が若い頃、康生が賑わっていた時の楽しさも、通りに人がいなくなって寂しくなっているのも見ているから、思い入れがあるここで何かしたいと思ったのもあります。
当時は籠田公園がこれから新しくなるタイミングで、中央緑道のリニューアルの話も聞いていたので、どんどん面白くなりそうな盛り上がりも感じました。

野菜日和

人付き合いの中で生まれつながっていく縁

—こちらの物件を貸す/借りることになった経緯や、その決め手は何でしょうか?

鈴村:康生エリアに詳しい、まちづくり岡崎の長谷川伸介さんが僕の同級生で、物件を探していることを相談したら、7町・広域連合会の事務局もしている町内会の筒井健さんを紹介してもらって。そこから畔柳さんと、こちらの物件を紹介していただきました。

畔柳:その時は私も仕事を続けて50年を機に、お店を閉めようと思っていたタイミングだったんです。筒井さんも長谷川さんもクリーニング時代からのお客さんで、「借りたいって人がいるから会ってみたら?」と言われたんですよね。
でも、私は鈴村さんに、ここを「貸している」と思ったことはないのよね。なんだか息子たちに似ているの。自分でいうのも何だけど、みんないい子なのよ。根が真面目そうな一生懸命な感じ。それを初めて会ったときに思ったのよね。

鈴村:僕はいま47歳で息子さんと同世代なんですよね。

畔柳:そうそう。うちは息子が3人いるんだけど、三男が45歳だからね。
あと、ちょうど打ち合わせで会うからと高級食パンを鈴村さんにお裾分けしたら「やっぱり高いパンって美味しいですね。」って言ったんですよね。それがすごく可愛かった。カッコつける人が多い中、そんな風に素直に表現してくれたのも嬉しくて。だから貸すとか借りるとかじゃなくて、人付き合いの自然な流れだったのかなと思います。

鈴村:確かに、大家さんと借りる人の立場の話は最初からなかったですね。

熱意と誠意が応援や共感を呼ぶ

—不動産オーナーが、若い人や何かやりたい人に空き店舗を貸していく動きが活発になるにはどうしたらいいのでしょうか?

鈴村:家賃を払うだけの関係も多くあると思うから、相性もあると思うんです。僕は初めてお会いした時から、ここでこういうことをやりたいというお店の構想をすごい熱量で話した記憶はありますね。

畔柳:1番最初が好印象だったのよね。貸すのは、もちろん誰でもいいわけじゃないから。
貸し借りが決まる前、友人4人で「キッチンベル」に夕飯を食べに行ったこともあるんですよ。「ここでお店をやりたいって人がいるから、1回行ってみたいし一緒にご飯食べにいこう」って。そうしたら友人が料理に感動して「貸しなよ」と言ったんですよね。今でも料理美味しかったねという話になるくらい印象的でした。

鈴村:借りる側としては、自分がやりたいことを伝えて、それを一生懸命やりますと言うのは大切かなと思います。あとは当たり前のことだけど、どこの誰かわからない状態だとか、夜までうるさいとか、迷惑かけるのはダメだし関係性が悪くなりますよね。

畔柳:あと、私は応援したい、何かしてあげたい気持ちと、一歩引くべきという気持ちをいつも持っているかな。庭いじりが好きで、このお店の植栽も気になっているんだけど、「鈴村さんに聞いてからやりなよ」って息子に諭されているの。

鈴村:小さな話ですが、息子さんとも会えると「こんにちは」と挨拶し合ってますね。なんだかそういうやりとりって嬉しいですよね。

畔柳:私も息子から「鈴村くんに会ったよ」と言われるのよ。

—スタートの時だけでなく、やりとりを続けることが大切なんですね。お話をうかがっているとお二人の関係性がどんどん良くなっている感じを受けます。

畔柳:そうね。私、彼が死んじゃったら嫌だもん。

鈴村:そんなこと言ってもらうと、頑張らなきゃいかんな、ってより思いますね。いつも気にかけていただけて有難いです。

畔柳:言葉にしなくたって、心から安心しているから。それだけよ。
そういえば、実は息子が野菜嫌いなのよ。でもお嫁さんと一緒に野菜日和に来たことはあるの。「おかあさん野菜食べられる?ご馳走するから一緒に行こう」って。ここに来ると自分がやっていた時のことを思い出すよね。

鈴村さん(左)と畔柳さん(右)

畔柳:クリーニング店だった時はこのあたりは会社も多くて、今よりも人がよく通る場所だったんですよね。「ここが汚れていて」とか話をするようになって、酒屋の時より仲良くなる人が増えて。朝開けると同時にサラリーマンがシャツを取りに来るくらい、お客さんがいっぱい来てくれていました。つい「缶コーヒーでも飲みな」ってあげていたら、それが嬉しくて来る人も出てきたり。

鈴村:畔柳さん、商売人だからだね。

畔柳:私、商売人じゃなくてサラリーマン、国家公務員の娘なのよ。岡崎の商売やっている人のところに嫁ぐなんて、と言われたな。

鈴村:僕の親父も国家公務員なんですよね。僕も最初は郵便局で働いていたんだけど合わなくて辞めちゃった。それにすごく反対されたなあ。

—最後に、QURUWAエリアの変化をどう感じているか、今後の展望も伺いたいです

畔柳:なんだか賑やかになってきたなと思っています。

鈴村:確かにそうですよね。でも、籠田公園のイベントで人が来るだけではなく、岡崎城やリブラ含めて、もっといろいろな場所に人が行って、より回遊できるようになればいいと思っています。中央緑道で僕らが主催でやった「籠多市場」もその想いがありました。
住んでいる人、商いをしている人、両方が幸せになれるといいなと思っています。

鈴村秀夫(左)
岡崎で生まれ育ち、みんなの笑顔が見られる仕事がしたいと25歳の時に脱サラして飲食業界へ。いろんな経験を積み35歳(2011年)で竜美ヶ丘にキッチンベルをオープン。更に夢は広がり健康的な食生活と言う事を考え野菜に関する資格をとり、2020年に"心に優しい、身体が喜ぶ、そして心と身体を整える” をコンセプトにした野菜日和をオープン。地域と繋がり街に溶け込む、そして有機無農薬農家さんとお客様との架け橋になりみんなが笑顔になれたらいいなと思っております。

畔柳美智子(右)
山口県下関市生まれ。結婚を機に岡崎に住み、27歳から50年間お酒とたばこを売る「金泉酒店」(のちクリーニング店)を切り盛り。プライベートでは3人の息子を育て上げる。クリーニング店時代に出会った友人や知人と、岡崎の美味しいごはんを食べたりお酒を呑むのが楽しい。趣味は植木や草花の手入れ。

【キッチンベル】
インスタグラム https://www.instagram.com/kitchen.bell/
ホームページ https://kitchenbell.boo-log.com/

【野菜日和】
インスタグラム https://www.instagram.com/831.biyori/
ホームページ https://yasaibiyori.boo-log.com/

文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2022.08.15

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