岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:東友里さんと東信史さん

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二七市通りにできた「Morning Market Residence(モーニングマーケットレジデンス)」。「Okazaki Micro Hotel ANGLE」(以下アングル)の飯田圭さんが運営する場所として、2023年5月にスタートしました。

そんな「Morning Market Residence」初の住居者となったのが、東信史さん友里さんと生まれたばかりの杏紗ちゃん。京都から子育ての場として岡崎を選び、地域に住む場所を開きながら人とつながり、まちを楽しんでいる東夫婦にお話をうかがいました。

愛知県生まれと佐賀県生まれの2人が出会うまで

友里さんは名古屋市で生まれ、9歳のときに親の転勤で岡崎市に引っ越してからずっと岡崎に住んでいたそうです。大学では教育学部に進学して、4年間名古屋市まで通いながら保育を学び、豊田市の公務員保育士に就職しました。実は、大学在学中に東日本大震災があり、何かしたいという思いから宮城県石巻市に1か月に1度のペースで通っていました。就職してからも2年間石巻に通い続けていたこともあり、その後石巻市で1年半小規模保育施設で勤務をします。

そして2019年、岡崎に住む両親から「もっと近くで暮らして欲しい」というお願いもあり、縁あって東北よりは近い京都にいくことにしたそうです。

京都では、友里さんが英語が喋れることもあり、ベンチャーのインバウンド向け旅行会社に就職しましたが、保育の仕事が好きで諦められないと、平日は旅行会社で働き、土日だけベビーシッターをすることに。その後、旅行会社の勤務形態を調整しながら、ベビーシッターの割合を増やし、最終的には退職して独立。現在、京都を離れてもベビーシッターをしていた頃のつながりは途切れず、知人の託児所と連携し、ベビーシッターを派遣する「合同会社わたげ」を立ち上げて現在にいたります。

パートナーの信史さんと出会ったのは2020年4月。緊急事態宣言下で居酒屋など夜に飲めるお店が閉まっていた中、ZOOMを使って毎日あだ名の「まっくす」から取った「まっくす酒場」と称したオンライン飲み会を開いているのを、友里さんが友人のつながりもあって、twitter上で見つけて参加したのがきっかけだったそうです。お互いお酒の飲み歩きが好きで、緊急事態宣言が開けた6月にはその酒場イベントで知り合った数人でリアルで会うことになり、交際し結婚。あっという間のことだったと2人は語ります。

信史さんは佐賀県生まれ。28歳で京都に住むまでは、6年半会社員として福岡県で株式会社リクルートの広告営業の仕事に就いていました。「まちづくりの仕事をしてみたい」「いろいろな人と働いてみたい」と思っていたところ、友人を通じて「京都で働いてみない?」という誘いがあり転職。

それがきっかけとなり、 NPOやまちづくりの仕事、大学の講師などをしながら38歳まで10年間京都にいたそうです。現在は「一般社団法人キャリアブレイク研究所」を新たに立ち上げ、一時的な離職や休職(キャリアブレイク)を肯定的に捉える考え方を文化にしていくための活動をしています。「むしょく大学」「無職酒場」といった人が集えるための場づくりをおこなっています。

多くの人が訪れるレジデンスのリビングに貼られた、3人のプロフィール

岡崎、QURUWAエリアを子育ての場に選んだ理由

結婚当初はお互いに京都で仕事もあり、仲の良い友人たちもいて、好きなお店もたくさんあって、「引っ越す」という考えもなかったそう。ただ、信史さんは京都という土地を十分味わった気持ちもあり、「そろそろ次に……」という思いはあったそうです。そんな中、友里さんの妊娠がわかります。

京都で子育てに関する仕事をして、ママ達を助ける側だった自分がここでママになる、となったときに、京都で子育てをする姿が全然想像できなくて。じゃあ、どこで子育てをしたいのか考えたら、地元である岡崎が浮かんで、まっくすさん(信史さん)に相談したんです。

友里さん

いいんじゃない、ご縁があるところだったら、と思いました。でも岡崎には何があるの?って。ゆりっぺ(友里さん)にいろいろ聞いたり、2022年の冬から数回、アングルに何泊かしながら住む場所を探したりしました。でも、どのエリアで具体的にどんな物件にするかを決めるのには結構時間がかかりました。当初は矢作橋や六名、JR岡崎のあたりも住む候補地に入れて探していました。

信史さん

私はせっかく岡崎に住むんだったら、いま住んでいるこのエリアがいいなとは思っていました。違う地域に住んで、外から見ていても、QURUWAのエリアが楽しく変わってるっていうのは感じていたし、ちょっと関われたら嬉しいな、楽しい暮らしができそうだなっていうのは思ってました。最初は不動産屋に行って、マンションで2LDKで7〜8万円ぐらい、初めての子育てだし環境的や設備も重要だなと思いながら探していました。でも、このエリアだと分譲住宅か単身者用ばかりで、住みたいサイズ感で借りられる部屋があまりなかったんです。

友里さん

エリアの希望が見えてくる中、マンションの物件を見てもなかなか決め手になるものはなかったそう。少し目先を変えて、アングルの飯田さんに「7町・広域連合会」の筒井さんをご紹介いただき、南康生町中心に空き家を見せてもらったそうですが、今度は立派な一軒家で自分たちの手にはおえない大きさで、物件探しは難航していました。

シェアハウスで暮らすことを決断する

そして、最終的に決めたのが飯田さんに一番最初に教えてもらった、現在住む物件でした。

当初は内見ができない状態だったものの、ホームページ上の情報を見て、他の物件をあたっている間もお互いの頭の片隅にこの物件のことがあったそう。飯田さんからは「この物件が面白そうで何かやりたいけど、アングルもやってるし、一人では無理そうだ」と話を聞いていたので、「じゃあ、私たちが住むので一緒にはじめませんか?」と、共に構想を固めていったそうです。

2階の共有リビングで

当初思い描いていた、マンションでの3人暮らしから、コミュニティのなかで子育てをするという形に不安はなかったのかをうかがうと、東さんたちは「2人ともシェアハウスに住んでいたことがあるし、面白い暮らしができる、京都の家よりも広くなる、3年間でアングルが築いてきた地域とのつながりのおかげで、まちの輪にも入りやすく信用もされたんです」といいことがたくさんあったと語ってくれました。

2階にある広い共有キッチン
2階から3階にあがる共有部にある空間を小さな書斎のように使っているそうです
3階にはそれぞれの占有空間である、3つの個室が並んでいます
4階にはイベントや会議ができそうな共有空間と広いベランダがあります

もともとマンション暮らしの実家家族が節目にパーティーをしたり、マンションの人を呼んでごはん会をしたりと、親がやってたことを今やってるみたいな感覚もあります。我が子には、いろんな人に触れて育ってほしいと思っていたし、ここぞとばかりにいろんな人の手を借りようって思って。

私たちは最初の住居人として移住したけれど、これから暮らす人もアングルさんのフィルターを通してたどり着くと思うから、感度が近い人たちが来るんじゃないかと楽しみにしています。赤ちゃんがいるので、子どもが苦手じゃない、きっとおおらかな人が来るのではないかな。親世代からしたら、首もすわってないのに、人が出入りして外にもいっぱい行ってるなんて意味がわからない暮らしをしてると思うかもしれませんね。私たちはいろいろ触れて「杏紗ちゃん、強くなれ!」と思っています。

友里さん
東家を訪れる人たちは杏紗ちゃんとよく交流しています(提供:東信史さん)

子どもができると外出しづらいし、2人でいたら喋る相手が他にいないことになるけれど、家を開いているといろいろな人が来てくれて楽しい、というのもありましたね。あと、ここに住み始めてよかったことの一つは、川でも公園でも、毎週のように何かイベントが行われて出かけやすいし、それを通して人ともつながりやすいというのはあったな。いま38歳で18年間働いてきてたので、子育てや岡崎で引っ越したことを楽しみながら、今年1年は仕事を休んでキャリアブレイクを味わいたいと思っています。

信史さん

暮らし方の広げ方、面白がり方

2人がまちと暮らしと子育てを楽しんでいる姿は「東家のケ」というinstagramアカウントの投稿からも垣間見られます。友里さんが旅行会社にいた時にSNS運用担当もしていて、慣れていたというのもあり、信史さんから「東家のケ」を始めようと提案があったのだそう。

僕らの価値観とか大事にしたいことを紹介していきたい、それを見てもらうとコミュニケーションがすごい楽だなと思ったんです。自分が出会って紹介したいもの、皆さんに紹介してもらったもの、本当に個人の趣味的なことをただ書きたい、吐き出す場所が欲しいと思ったのが始まりでした。だから、京都にいた時にはこんなことはしていませんでしたね。

信史さん
instagram 「東家のケ」の最近の投稿の一部

私は自分の地元だからこそ見慣れてる景色もある中で、まっくすさんがそんなとこを切り取ってくるんだって思えて、それが面白いんです。つながりのなかったこの街に暮らしてる人も見てくれて、そんな初めましての方が「インスタ見てるの」と、声をかけてくれるのも面白いなと思っています。

このまちには周りのことを気にかけてくれる人が多い気がしますね。妊婦の時点で引っ越してきたけど、会う人みんなが杏紗ちゃんが生まれることを楽しみにしてくれて、それが会話のきっかけにもなりました。生まれてからもすごく可愛がってくれるし、いいタイミングで引っ越してきたんだなと。

友里さん

レジデンスの4階と広いベランダで、パーティーや子育て世代向けのイベントをやってみたい。仕事に関しても暮らしに関しても「もっとこうなりたい、もっとこうしたい」が、どんどん形になっていったと語る2人。これからの岡崎での広がり方が楽しみです。

ちなみに「Morning Market Residence」では、イベントや日常的なゆるい企画なども不定期で開催されるので、東夫妻のインスタグラムをぜひご覧ください。

東信史さん / まっくす
1985年1月生まれ 佐賀県小城市出身。ファシリテーター・ワークショップデザイナーとして活動。2014年に「まちとしごと総合研究所」を京都で設立し、住民主体のまちづくり事業に携わりながら「ひとりじゃできないこと、みんなでやる」をテーマに活動を拡げる。22年には「キャリアブレイク研究所」を設立し、一時的な離職や休職を肯定的に捉える文化を日本で拡げるための活動に挑戦している。23年5月、妻の出産にあわせて岡崎市に移住し、現在は子育てと新しいまちでの暮らしづくりを楽しんでいる。

東友里さん/ ゆりっぺ
1991年8月生まれ 愛知県岡崎市QURUWAエリア出身。公立こども園、認可小規模保育所での現場経験を経てフリーランス保育士に。ベビーシッター 、企業広報、企業SNS運用など複業をして「保育士はなんにだってなれる」ことを体現中。2021年2月に「オーダーメイド出張保育やっほー」として起業し2023年に「合同会社わたげ」を設立。人との交流を好み、”子育ての選択肢を増やす”ことを我が子を通じて楽しみながら模索中。

https://watage58.studio.site
https://note.com/yuri_babysitter
https://lit.link/carrerbreaklab
https://www.instagram.com/higashike.no.ke/?hl=ja

文章・写真:山﨑翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2023.09.03