あの人のトライ:龍城さうな 増田遼太さん、太田隼人さん
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QURUWAで日々トライを続ける方々のお話を聞いていくシリーズ「あの人のトライ」。今回登場していただくのは、大正時代創業の歴史ある銭湯をサウナへリニューアルし、「龍城(たつき)さうな」を営む店長の増田遼太さん(写真右)と太田隼人さん(写真左)です。
オープンは2024年8月。サウナ好きのおふたりが数々のサウナを巡る中で得た知見をぎゅっと詰め込んだ「龍城さうな」。動サウナと静サウナの2種類があり、アメニティにもこだわりつつ昔の面影も随所に感じられる施設です。
約100年の歴史をもち、ファンも多い「龍城温泉」をリノベーションした経緯や思い、おふたりの過去やこれからの展望をお聞きしました。
共通の想いで始まったサウナ事業への道
ふたりは岡崎で生まれ育ち、高校の同級生でした。ラグビー部で一緒に過ごしたり、卒業後もたまに会って遊んだりするような仲だったそうです。そして社会人になり、それぞれがサウナの魅力へとハマっていきます。
サウナを好きになってから、自分で事業を始めるまでの心境を太田さんはこう語ります。
僕はもともと大府市で消防士として働いていました。4年前、27、8歳の頃にサウナを知って、流行る前ぐらいに同期と行き始めました。そこから1人でも通うようになって。日々の疲れも癒せるし、友達と話す場所としても最適なのでどんどんハマっていきました。
同時に、自分で事業を手掛ける方が周りに多い環境で刺激を受けて、自分でも何かできることないかなっていうのも考えていました。サウナが好きだし、岡崎市に本格的なサウナはないし、始めてみようと思って。
太田さん
増田さんは当時をこう振り返ります。
大学卒業後の8年間、ずっと豊橋で社会人時代を過ごしてたんです。豊橋では友人もいないので毎週末岡崎に帰ってきては友達と遊ぶ生活をしていました。そんな中でサウナが1つの遊ぶツールとしてあって。
豊橋で勤めていた会社の近くにサウナがあって、平日はそこに行き、週末は岡崎に来てみんなで市外のサウナへ行っていました。
岡崎にもあったらいいなあと思っていたんですが、ここまでサウナの認知度や注目度が世の中で広まっているのに、岡崎の街中にできるっていう話はなかったんです。
自分たちがこれだけ外に出て行くわけなんで、同じようにサウナを求めて岡崎市外に行く人もいるだろうなと思って。それでサウナ事業にトライしてみようかなと思い始めました。増田さん
就職先も住むところも違う中で、それぞれサウナを好きになり、通っていたふたり。
共通の知人を介して、お互いがサウナをつくりたいと思っていることを知ります。
僕は職場の同期と行くことが多かったんですけど、増田は友達とよく行っていたらしくて。それで、たまたま会ったときにお互いのサウナ好きを確認して一緒に行くようになって、「サウナやるか?」とサウナで話しましたね(笑)
太田さん
創業100年を迎える地元銭湯との出会い
ふたりでサウナ施設をつくると決めるまではとんとん拍子だった話も、お互いの仕事が忙しく、土地と物件探しに難航します。
土地を探して、国道1号線沿いでやるかっていう話も出ていました。40フィートの大きいコンテナを立てて一棟貸しのサウナにしようか、と。図面までできた時もあったんですけど、いまいちピンとこなくて。お互い口にしてないけど、自分たちのやりたいサウナのスタイルがなんとなくあって。
太田さん
計画を白紙に戻して再度探している矢先、増田さんが「龍城温泉」という場所があることを思い出し、自ら家主に交渉しに出向きます。
ここだ!ってなりましたね。親しみやすく、日常使いができてふらっと入れるところが好きだなと思ってたんで、そういう場所を心の中で探してた感覚があって。龍城温泉は元々地元に親しまれていた銭湯だったという文脈もあり、ぴったりでした。
太田さん
ふたりが出会った龍城温泉は1925年(大正14年)に創業し、2021年から薪をくべる窯の不具合を理由に長期休業中でした。「龍城温泉ファンクラブ」のみなさんがどうにかこの場所を維持できないかと存続できないかと、イベント開催やオリジナルグッズ販売による資金集めなど様々な活動をして、2022年に伊豫田家具興産株式会社が龍城温泉の家主と賃貸借契約を締結したことで存続できるようになったという背景があります。
歴史ある建物への責任
賃貸借契約をした伊豫田さんは古い建物を維持していく難しさを感じられていたそう。重要建造構造物になる可能性があったり、すでに他の方から問い合わせがあったりと今後の動きが出ていたタイミングで突如現れた若者2人の熱い想いに伊豫田さんは快諾をします。
歴史が長く、ファンも多い建物を受け継ぐことにプレッシャーは感じなかったのでしょうか。
正直最初は、やっと事業に取り掛かることができる嬉しさでいっぱいであまり感じなかったんですけど、家主さんやファンクラブの方と話してる中で100年の歴史ある建物を引き継ぐ実感が徐々に湧いてきました。
太田さん
工事を進める中で、僕らが大事にしたいと思うところと、家主さんやファンクラブの方がそれぞれ大事にしてほしいところが少しずつずれることもあり、どの立場も尊重しながらすり合わせていくところにプレッシャーを感じていました。
増田さん
家主さんや伊豫田さん、ファンクラブの方と幾度となく顔合わせをし、毎日の工事予定や進捗をLINEグループで共有するなど、丁寧に進めることを心掛けていたそうです。
古き良き趣を守る、難航するサウナづくり
サウナにしようと決めた物件は築100年。当時の図面もないため、繊細な建物はいつ崩れるかわかりません。「鉄骨をたくさん入れたらリノベーションできるよ」「古すぎて、もし倒れてしまっても補償ができない」という業者も多く、次は昔の趣を残す難しさが立ちはだかります。
知人のツテを辿っていって、工事をやってくれるという勇気ある工務店が西尾市に見つかったんです。地元の人が親しみを持って入れるようにこれまでの姿を残しつつ、新しいものを掛け合わせられたらいいなと思っていたので、風情を残すことに重きを置く工務店が見つかり安堵しました。
太田さん
当初ふたりの予定では、2024年3月にお互いに仕事を辞めてGWにサウナをオープンさせるという目標がありました。しかし、様々なことが難航したためオープンは8月に。一刻も早いオープンを目指すために、ふたりも毎日現場に赴き工事に参加したそうです。
大工さんたちにとっても、壊して開けてみてどうなってるんだ?みたいなことの連続だったんで、予定よりもかなり時間がかかりました。物販スペースの天井とかも全部張り替えたんですけど、1回開けたら建物が壁から離れてるよって(笑)
太田さん
建物が古く、図面も残っていない中での工事はそう簡単にはいきません。
工事に参画したことで、現場の大工とメールや電話でやりとりすることなくその場で話し合えるので工事のスピード感がとても早かったとか。
完成した「龍城さうな」は、工務店をはじめとして、水道の設備屋や電気屋、大工、設計士とみんなでつくり上げた集大成だと笑うふたりが印象的でした。
様々な苦難を乗り越え、無事に「龍城さうな」をオープンした増田さんと太田さん。仕事を辞めてサウナの世界に飛び込んだことに、不安はあったと本音を話してくれました。
さすがにお金もかかることなので、仕事を辞めてサウナを始める不安はそれなりにありました。覚悟を決めて今があります。もうやるしかないですもんね。(笑)
今は、純粋にいいサウナができたなって自分でも思いますし、来てくれるお客さんからもそういった声を聞かせていただいています。
増田さん
この仕事で生活ができるのか、本当にお客様が来てくれるのかと将来に不安はありましたが、チャレンジしなかったら人生後悔が残ると思い挑戦することができました。
太田さん
地元の人と観光客、どちらにも愛されるサウナを目指して
龍城さうなのロゴは龍とサウナの湯気をモチーフにしていて、古い建物に馴染むように家紋のあしらいになっています。サウナのロウリュで使う柄杓も隠れています。
オリジナルクッズは、自分たちが身に付けて心地いいと感じたもののみを扱っていて、洋服タグごと服にプリントするという細かい計らいも。
そんな龍城さうなのオープンから4か月が経ちました。
Youtuberとして活躍する東海オンエアの友人ということもあり、開店した日からファンの方が全国各地から来店してくださったそうです。
ふたりに今後の展望を尋ねました。
ありがたいことに、今は東海オンエアの友人という色が強く観光客の方も結構多いんですけど、日常的にサウナに足を運んでくださる地元の人にももっと来てもらいたいなと思っています。
体験を提供できるものを地元につくれたことがとてもよかったと感じています。生活をちょっと豊かにするサウナは何度体験しても変わらず気持ちがいいので、体験に価値を感じていただけるように努力するとともに、それが生活の一部となる方を増やしていきたいです。増田さん
岡崎で僕たちも生まれ育ったということもあるし、地元が好きなので、地域の人たちに親しみをもって来てもらえるような場所になれたらいいなって。
今後このQURUWAエリアがもっと盛り上がっていくためには、やっぱり観光客の方に来ていただくのも大切なんで、サウナに初めて入る方の入り口的なところになれるといいなと思います。太田さん
龍城さうなは予約不要。タオルなどのアメニティも完備されており、銭湯のような感覚でふらっと訪れられるサウナ施設です。基本は男性を対象としての営業ですが、今後はレディースデイとして女性の方も楽しめる日をつくっていくそうです。物販スペースは男女問わず入れるので、ぜひ足を運んでみてください。
増田 遼太(写真右)
1993年生まれ。岡崎市出身。会社員時代は豊橋市で建設会社の現場監督を8年間経験。数年前からサウナにはまり、毎週友人といろいろなサウナに行くのが楽しみだった。そんな中、岡崎市にサウナ施設がない事に気づき、サウナを作ろうと龍城温泉をリノベーション。大正と令和が融合された龍城さうなを立ち上げ、市民の新たな憩いの場の1つとして岡崎を盛り上げていく。
太田 隼人(写真左)
1993年生まれ、岡崎市出身。専門学校を卒業後、2015年から県内消防署で救急救命士として勤務。日々の疲れを癒したり友達と話したりする場所としてサウナにハマり、地元岡崎でサウナ施設をつくりたいと強く感じるように。一緒にサウナに通っていた高校の同級生で同じラグビー部でもあった増田遼太と共に、2024年に龍城温泉を改修し龍城さうなとして運営をスタートする。
<龍城さうな>
HP
https://tatsukisauna.com/
Instagram
https://www.instagram.com/tatsukisauna/
文章:東友里(Okazaki Micro Hotel ANGLE)
写真(特記なきもの):飯田圭(Okazaki Micro Hotel ANGLE)
公開日:2024.12.26