あの人のトライ:ONE RIVERのみなさん
- 事業を始める
- イベントを開催する
最近、乙川やそのまわりで、舟や自転車、SUPやキャンプなど、いろいろなアクティビティを見ることが増えたと思いませんか?
その背景には、2021年5月にできた市民団体「ONE RIVER」の存在があります。先ほどのアクティビティのみならず、星を見る、橋を大事にする、森と川のつながりを伝えるなど、それぞれが好きなことややってみたいことに取り組んでいる団体です。ONE RIVERには小学生から60代の方までの多様な年齢の方々が関わっており、未来につなげたいこの場所の価値を伝えていこうと、様々な活動を通して、未来の日常につながる想いをカタチにしています。
そんなONE RIVERにはどんな人がいて、どんな思いを持って活動しているのでしょうか?やりたいことがあって、そこにたまたま「川」という場所があったところからはじまり、つながりができてチームとなった現在までの話をONE RIVERの皆さんにうかがいました。
僕は本業が自転車屋ということもあり、乙川の活動に関わる前から、子ども達が自転車の練習で使える公園はないか探していました。調べてみると、市内の公園のほとんどが自転車を含む車両の進入も走行も禁止しているところがほとんどで、公園として大切なことってなんだろう?と疑問を持つようになったんです。そんな流れの中で乙川の活動に関わるようになりました。
井上さん
ONE RIVERメンバーのひとりである井上徹さんはそう語ります。乙川の活動に関わるようになってからは、その影響もあって川辺で自転車に乗る人の風景が多く見られるようになり、お客さんの中には「乙川で見たサイクルトレーラー(子どもをのせたり荷物を運んだりする自転車用トレーラー)が欲しいのですが」と言う人も現れて驚いたそうです。
現在、ONE RIVERが実施する活動は、乙川をより身近に感じてもらうための啓発イベントである「川びらき」「川あそび」「川ぐらし」の実施や、毎月第2土曜日の朝に実施している環境美化活動「リバークリーン」等があります。またこれら以外にも、「桜城橋ふき」や「おとがわサンデーヨガ」、自転車やランニング等のイベント等、川の魅力を増幅させる様々な事業のサポート等を実施しています。
今年の7月に実施した「川あそび」の運営に参加した田澤亜紀子さんは、「私はONE RIVERで手伝いをするようになってまだ日が浅いけれど」と言いながらこう続けてくれました。
今回のイベントでは、手づくりの縁日を楽しんでいる子どもたち、川で散歩を楽しんでいる人、キッチンカー横のテーブルで美味しそうにごはんを食べる人、私たちが一生懸命に立てたテントでは寛いでいる人の姿。それが全部キラキラして見えて、すごく嬉しかったです。その映像がずっと頭に残っているし、やってよかったと思いました。今まで活動を続けてきた蓄積があったから、こんなにたくさんのお客さんが来て盛り上がっているんだと思います。
田澤さん
ONE RIVERの前身的な活動である「おとがワ!ンダーランド」
田澤さんの言う「今までの活動の蓄積」とは、乙川の水辺空間活用プロジェクト「おとがワ!ンダーランド」を指しています。おとがワ!ンダーランドは「乙川リバーフロント地区かわまちづくり事業」の一環として、2016年から2020までの5年間にわたって実施された社会実験プロジェクトです。それまで様々な理由により禁止されてきた公共空間の活用ルールを見直し、自由と責任のもと、市民・事業者が主体になって水辺に新しい風景を生み出すことを実施してきました。
遡れば、岡崎市が2015年「かわまちづくり支援制度」に登録したことで、名鉄鉄橋から吹矢橋までの乙川が規制緩和されたことで挑戦できた取組みであり、国土交通省が2009年からつくったその仕組みは、地域の特性や実情をふまえて規制緩和をおこない、その範囲で民間の収益事業を含む活動を可能とし、川に親しみ、まちの活性化にも寄与する使い方を推奨するものでした。
毎回たくさんの方が参加している、桜城橋拭きを主催している宮川洋一さんは、当時を振り返りながら、自身が乙川に関わるようになったきっかけをこう語ります。
僕は殿橋を架け替えるという話があがったとき、歴史や伝統がある「殿橋」の素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらいたい!と思い、活動に関わり始めたのがきっかけでした。
宮川さん
社会実験が始まったばかりの頃は、そこまで賑わいが生まれるような場所ではなかったのですが、少しずつ乙川や殿橋に足を運んでくれる方が増え、「殿橋テラス」という飲食を提供するオープンデッキを架設する活動も相まって、多くの方が訪れ、橋の写真やそこでの思い出をSNS等にアップしてくれるようにまでなりました。
それまでは、どちらかといえばプロジェクトの参加者としての関りが多かったのですが、今は「殿橋洗い」や「桜城橋ふき」等の活動を自ら実施するようになり、この場所がどんどん自分ごとになっていきました。今では自分の子どもも活動に参加してくれるようになり、みんなにとっても僕にとっても幸せな居場所がこのまちにできたんだなと実感しています。
宮川さん
「おとがワ!ンダーランド」は、開始時から年を重ねるごとに盛り上がりを見せ、2021年3月までの5年間でたくさんの人が乙川に集まってくるようになりました。
その活動実績を踏まえて、2021年4月には、民間事業者2社により共同事業体「リバーライフ推進委員会」が発足され、これまでの活動を引き継いで、乙川河川緑地の利用に関する窓口や美観維持管理がおこなわれるようになりました。それにより、現在も乙川河川敷を舞台にした活動が続いています。
そんな中、ONE RIVERもこれらの活動に参加する一事業者として、乙川や乙川での活動を大切に思う人たちが集まり、一つの市民活動団体を組成し、現在の取組みを実施しています。
「私は何かプログラムを実施するわけじゃないけど、近所に住んでいるから顔を出しているだけよ」と笑いながら、杉浦紫津子さんは、当時のことや現在をこのように話してくれました。
社会実験が始まったばかりの頃は、人が誰も来ないのを見て心配していたので、今は多くの人が集まるようになったことがすごいなと感じています。それはきっと商売をするだけでなく、お客さんと同じ目線で一緒になって自分たちも楽しもうとしている姿勢が良いのだろうなと思います。
杉浦さん
100年後の未来のために
ONE RIVERが発足されてからは、活動の場や興味の範囲がより広範に広がり、他地区の川や乙川の源流である森を見に行ったり、いろいろな生態系に触れてみたりすることで、より川の面白さや、つながりを感じられるようになったと皆さんが口を揃えて話してくれました。乙川からはじまった自分たちの「好き」が、どんどん広い視野に変わってきたそうです。
そんなさまざまな活動風景の写真を撮り続けている山田拓生さんは、自身が撮る写真にも変化が生まれてきたと話してくれました。
はじめの頃はクローズアップの写真を撮ることが多かったんです。でも、最近「水上と陸地での楽しみ方や過ごし方に境界線がなくなってきているね」と自分が撮影した写真に意見をもらったことをきっかけに、全体の光景が写るような写真も撮るようになりました。そうしたら、日常的に川でみんなが楽しく自分らしく過ごしている、そんな僕たちがつくりたい未来が写真を通して見えやすくなったと思います。 そんな風景を多くの人に見て欲しいし伝えたいから、なるべく早くSNSにもあげるようにしているんです。
山田さん
社会実験実施時から、ずっと川の活動に関わって来た岩ヶ谷充さんは、「当たり前のことだけど、川はつながっています。なので、川を介して行われる様々な活動や川に関わる人々は必ず一つの文脈の中に捉えることができるし、そういう意味では、乙川が好き!乙川を大切にしたい!と思う人はみんなONE RIVERなんです」と、これから目指したい未来を話してくれました。
「変わりはじめたと感じたのはどんなときですか?」という質問を聞かれることがあります。僕は、そういう時は、工事が進み川が綺麗になったときや、まちに新しい施設がオープンしたときなどではなく、プロジェクトに関わっている人たちの表情が変わったとき、と伝えるようにしています。
岩ヶ谷さん
ONE RIVERという活動を通して、誰もがいきいきしていて楽しめる場所をこれからもつくっていきたい。そして、まちや森で起きていることや川に関わる人たちの想いを、これからの未来につなげていくことが大切なんだと思います。
ONE RIVER
私たちONE RIVERは、2021年に発足した乙川が大好きな市民による任意グループです。 2016年よりはじまった「乙川リバーフロント地区かわまちづくり事業」の実施主体として、5年にわたって乙川河川敷を対象エリアにした水辺空間活用のプロジェクトを行うなかで見つけた、未来につなげたいこの場所の価値を伝えていくために、様々な活動を通して、未来の日常につながる想いをカタチにしています。
https://one-river.jp
https://instagram.com/oneriver_otogawa
文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)
写真提供:ONE RIVER
公開日:2022.08.31