岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:611 中田修平さん、武田和温さん

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100年企業と呼ばれる、古くから続くお店が多い岡崎。その一方で、まちの変化と共に新しいお店がいま、次々とできています。

桜城橋と籠田公園をつなぐ中央緑道。その途中にあるビルの3階に古着屋「611」が、2022年4月にできました。1階は「Masayoshi Suzuki Gallery」で、その脇にある階段をあがると、広くて明るく開放感のある店内が見えてきます。「建物も格好いいし、自分だけが知っている特別な場所みたい」と気に入ってくれるお客さんが多いと聞きます。

お店を立ち上げたのは、今年24歳になる、名古屋で生まれ小学生から安城市に住む中田修平さんと、生まれも育ちも岡崎の武田和温さんの2人です。

看板の脇にある入り口から細い階段を登った先に611がある
両側に窓がある店内は、改装時に2つの部屋をつなげている

2人は高校も大学も同じ。経営学部でサークルも同じだったので、一緒にいる時間が他の人よりも格段に長かったそう。お互い古着が好きな大学生で「大学を卒業したらお店を出したい」と、学業のかたわら国内業者から仕入れた古着を販売する、ポップアップショップを開いていました。当時は、名古屋の金山でイベントスペース借りたり、池下で間借り販売をしたり、安城の「13倉庫」でも活動していました。武田さんはそのことをこのように話してくれました。

仕事でやりたいことがなかったから、自分は就職してもすぐに辞めると思ったんです。それなら最初から自分の好きなことをやった方がいいし、若いうちに始めるのは得しかないと考えて、卒業してすぐにお店を開くことを決めたんです。

武田和温さん

岡崎で物件を見つけるまで

大学生の頃から康生に来てはいたけれど、当時は行きつけの古着屋で買い物をするくらいで、飲食店も今よりわかりやすいお店が少なく、他に行く場所がわからなかったそうです。

そんな2人が、なぜこのエリアにお店を出したいと思ったのでしょうか。

愛知県で買物に行くなら名古屋になると思うけど、競合が多いし、しがらみもできてしまう。岡崎はそういうものがなくて、自由度が高いのがいいと思ったんです。お客さんの年齢層も自分たちの上下3歳くらいが中心で若いから、自由な感じは居心地が良さそうだなと感じます。最近はSNSのおかげで、名古屋からのお客さんも来てくれるようになっています。

中田修平さん

中田さんはこのように話してくれましたが、岡崎での物件探しは難航していたそうです。

卒業してから年明けまで10ヶ月の間、物件を探していた2人。ネットで調べてもいい物件は見つからず、他の探し方が思い浮かばずに、ひたすら歩き回って「この物件は空いていませんか」と直接尋ね「空いていない、貸せない」と怒られたこともあったそうです。

そんな中、13倉庫のイベントで知り合っていた岡崎のセレクトショップ「abundantism」の樋口さんに物件の相談をしたところ「以前見た物件が良かったから」と、大家さんとの仲介役で611と同じビル1階のMasayoshi Suzuki Gallery鈴木さんを紹介してくれました。

そこからはとんとん拍子。鈴木さんが大家さんとの間に入って、家賃交渉も改装自由も取り付けてくれたそうです。武田さんはその関係をこのように話してくれました。

鈴木さんとは友達みたいに2人でご飯に行くこともあるんです。大家さんにも良くしてもらっていて、屋上もBBQをしたり花火を見たりと、自由に使わせてもらっています。半年営業してみて、意外とまちの人ともお客さんとも、自然体で接していいんだとわかりました。

武田和温さん

物件が決まってから、2022年4月末のオープンを目指して改装すること2ヶ月。

もとはフリーペーパーの編集事務所で半分が和室だったこともあり、解体が1番大変だったと語ります。改装を手伝ってくれた友人たちが3階から1階までゴミを運んだり、軽トラックで何度もゴミを捨てにいったり。全部壊してしまったから、全部新たにつくらないといけなくなってしまったり。はじめて迎えた夏は窓から差し込む日光がまぶしくて、カーテンレールは残しておいた方がよかったなど後からわかることも多かったそうです。

左)中田修平さん、右)武田和温さん。この場所で友人たちとよくお喋りするそう

「何もわからず進めていったけど、みんながいなかったらお店ができていなかったよね」と、2人は笑います。そのみんなには、電気会社「タケダエレクトロニク」を運営する武田さんのお爺さまも含まれています。電気工事はもちろん、新しく作った壁面はお爺さまの知り合いの大工さんが施工してくれました。周りの人たちだけで、たまたまお店の改装が全部できてしまったそうです。

同世代の友人たちと共につくっていく

そんな改装時に全面的に手伝ってくれたのが、中田さんと武田さんの高校の同級生、平岩誠也さんと片山育海さんです。2人は仕事でアートやデザインに携わっていることもあり、中田さんと武田さんの内装イメージを片山さんがデザインやラフ画にして、それをもとにみんなでDIYしたそうです。「お店のロゴや名刺は、誠也がつくってくれたんです」と、武田さんはロゴについてこのように話してくれました。

「611」はアメリカのスラングから派生させてつけました。「511=情報過多、too much infomation」に、響きを重視して数字を1つ上乗せしたものです。お店の名前は数字だけど意味を持たないものがよかったから、そんなノリで決めて。誠也にロゴを頼んだ時にフォントの並びがいいからと「by」をつけたんです。
さらに説明的な文章を何か入れた方がいいと言われて、3分くらいで決めたのが「tip of the iceberg 」これは「氷山の1角」という意味で、ここでやっていることは僕たちの1部だよ、と言いたくて。ロゴも全体で、クラシックな感じと僕たちらしい尖った感じを合わせて表現してくれました。

武田和温さん
印象的なロゴ入りの販売カウンターもDIYで制作

販売しているオリジナルTシャツも、同世代でファッションブランド「AURICULER」を立ち上げた、大竹立真さんが一緒につくってくれたと、中田さんはその時のことをこのように語ります。

1つ歳が上の立真くんとは、彼が「スペース13」でイベントをしていた時に遊びに行って知り合いました。お店をつくって行く中で、いろいろ教えてくれて仲良くなって。何かオリジナルをつくらないの?と声をかけてくれました。僕らはデザインができないと言ったら、一緒にやろうよと言ってくれて、とても嬉しかったことを覚えています。

中田修平さん

いま感じているまちのこと

仕事の場所として、仲間と集い遊ぶ場所として、より長い時間をこのエリアで過ごしている2人には、このまちの今はどのように映るのでしょうか。

このエリアは過ごしやすいけど、僕らの世代が買物で梯子するところや、同世代のお店、夜までやってる飲食店は少ないと思います。だから18時にお店を閉めたら帰ることが多いし、駅周辺でないと夜遊べないのはもったいないと思う。そういう新しいお店が、この周りにもっとできたらといいなと思っています。

中田修平さん

中田さんはそう語り、武田さんがこのように自分たちのお店のことを続けてくれました。

今後はこの空間で展示とかもやってみたいんです。広いから古着のエリアと分けてやることもできると思う。服の話で言えば、お店を半年やってきて売れ筋が分かってきたので、自分たちがすきなものと売れそうなもの、いまの時期ならニットとか、女性のお客さんも多いので着れるサイズ感のものだとか。最近のアメリカでの買い付けではそういうものを狙って行きました。

武田和温さん

お店を営業しながらも、今でも少しずつ店内の改装をしているという2人。

上下の世代ともゆるくつながりながら、やりたいこと、やれることを広げていき、この世代を中心とした輪がこの場所で広がっていくのでしょう。

611
中田修平(写真左)
1998年9月生まれ。愛知県出身。私立岡崎城西高校、名城大学経営学部国際経営学科卒業後、在学中より勤務していた(有)KAPITALにそのまま勤務。卒業後1年間働き退職。高校、大学の友人と2022年4月29日古着屋611を立ち上げる。

武田和温(写真右)
1999年1月生まれ。愛知県岡崎市生まれ。私立岡崎城西高校、名城大学経営学部卒業後高校からの友人と2人で古着屋611をオープン。

google map:https://goo.gl/maps/R3fKmYGBRpirNQgE6
インスタグラム:https://www.instagram.com/611_by_/?hl=ja

文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2022.11.02

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