岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:STAND CHILLIN’ FILLIN’  石原 和也さん、金澤 輝さん

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籠田公園に隣接し、ひときわ目を引く看板を掲げる「STAND CHILLIN’FILLIN(以下:チリンフィリン)」。

昼間はテイクアウトのドリンクやプチパンケーキなどを楽しめ、夜はスタンディングバーになる2つの顔を持ち合わせています。

チリンフィリンを経営されているのは岡崎市出身の石原和也さんと金澤輝さん。今回はおふたりにお店を始めたきっかけやQURUWAエリアに対する想いを伺いました。

以下、石原和也さん(=カジャさん、上画像左)、金澤輝さん(=ACURAさん、上画像右)とおふたりの活動名での表記です。

ふたりでお店をはじめるまで

カジャさんは学生時代、東康生通にあるサンシャインビルに入っていた「MORE GAUCHE Ⅱ」という1階がセレクトショップで2階が古着屋になっている店舗に足繁く通い、オーナーからデザインのことを学ばれていました。当時はイベントのフライヤーやお店の看板などのデザインを手掛けていたそうです。現在は、高校生向けのフリーペーパー制作や教育メディアのディレクションなどへと展開されています。

一方でACURAさんは、16歳のとき先輩に誘われ音楽イベントの手伝いをし、重低音が体に響く感覚が忘れられず、レゲエミュージックにのめり込みます。その後三河のメンバーで結成されたレゲエサウンドシステムクルー「FUJIYAMA SOUND」に加入。よりリアルなレゲエミュージックを求めて約5年間ジャマイカで生活をしました。2018年にはドイツで開催されたサウンドクラッシュの大会で優勝を果たしており、現在も日本を拠点に海外でも活躍されています。

そんなふたりの出会いは同じ小中学校。1つ違いの先輩と後輩だったそうです。

学生時代にどうこうあったわけではないけど、僕がレゲエ音楽をやり始めてからカジャさんが康生にずっといて、たまたまカジャさんがフライヤーデザインしたイベントに僕も出演していたんです。

ACURAさん

当時、よく通っていた「MORE GAUCHE Ⅱ」という服屋さんが、地元のアーティストを応援しようというスタンスで。そこに所属していたので、ヒップホップやパンク、レゲエなどオールジャンルの方々のイベントに関わっていました。

カジャさん

卒業後もたびたび顔を合わせていたふたりですが、ACURAさんがジャマイカから帰国後にその距離はぐっと縮まります。

僕が帰国後にジャマイカのブルーマウンテンの豆を使って「BLUE RHYTHM COFFEE」というコーヒー屋を始めたんですが、POPUPでの出店場所を探していてカジャさんに相談したんです。

ACURAさん

音楽以外の切り口からもジャマイカの魅力を伝えたいという想いで始めた「BLUE RHYTHM COFFEE」。しかし紹介してもらった場所でのPOPUPだけでは売り上げが思うように伸びず、ACURAさんは実店舗を構えた方がいいのではと考えるようになっていました。

その頃、おふたりは2019年JR岡崎駅にある出会いの杜公園にてカリブをテーマに開催した「カリビアンガーデン」というイベントを開催。カリブ海生まれのレゲエミュージックの魅力を存分に伝えようという試みでした。

僕の個人的な方針なんですが、かっこいい音楽とか、かっこいい活動をしているのに一般層に届いていない人を応援したい思いが常々あって。岡崎にはACURAくんみたいにサウンドクラッシュで日本チャンピオンとして世界で戦っていたり、岡崎出身のミュージシャンがいたりするのにあまり知られていないじゃないですか。
例えば、THE レゲエのイベントもACURAくんが主催したらまちの人が音の大きさや身近でない文化に「なんじゃこりゃ!」と驚いてしまうし、公共性を持たせると本気でレゲエやってる人たちにぬるいって思われる。自分が関わって一緒にやれば、どっちサイドからも受け入れられる濃度でやれるんじゃないか、そのちょうどいいとこでなんかやりたいなって思ってて。それで実現したのが2019年に開催した「カリビアンガーデン」なんです。
実際に、20年前にレゲエに親しんでいた子たちがファミリーで来たり、バンドやキッズダンスの出演もあったりして、華やかでアットホームなイベントになりました。

カジャさん
カリビアンガーデン開催時の様子
カリビアンガーデン開催時の様子(提供:石原和也さん)

「カリビアンガーデン」を通して、カジャさんの方針であるカッコいいモノ、ヒトなどを応援したい気持ち、その道に精通している人も馴染みがない人もどっちもが楽しめることをしたい、という想いがより明確になりました。

このタイミングでACURAさんが実店舗を持とうか考えていたこともあり、「空いている物件があったら一緒にやってみます?」と自然な流れでふたりでカフェを始めることになったそうです。

飲食店経験のないふたりでカフェをスタート

しかし、飲食店を経営した経験のなかったおふたり。コーヒーだけでやっていけるのかという不安もあり、共通の友人が経営していた「Cafe Rob」のフランチャイズとして今の場所にお店をオープンすることになりました。

飲食経験はなかったけど、自分ではなくスタッフにお店に立ってもらう形態や康生で良さそうな物件が見つかったこと、家賃もほどよくて、いろんなことが重なりやってみようかなと思えたんです。

カジャさん

飲食店のノウハウを学びつつ、2年後には独立をして「STAND CHILLIN’ FILLIN’ 」として再スタートを切りました。

その時の想いをACURAさんはこう振り返ります。

やっていくうちに、フランチャイズではできないような自由さを求めるようになっていきました。この康生エリアも個人店が多いし、フランチャイズよりそっちの方がまちに愛されるんじゃないかって。

ACURAさん

店名である「CHILLIN’ FILLIN’」 の意味は「リラックスして満たされる場所」。訪れた方にとって心地のいい康生の場所にしたいという想いが込められています。

Cafe Rob」のオーナーも快く賛同してくれ、昼は女性スタッフがドリンクやプチパンケーキを提供し、木金土の夜はカウンターをつけてACURAさんがバー営業をするというユニークなお店へと変わっていきました。

小窓からパンケーキを焼く姿が見える、昼のチリンフィリン。
小窓からパンケーキを焼く姿が見える、昼のチリンフィリン。
夜のチリンフィリンは、スタンディングバーに。
夜のチリンフィリンは、スタンディングバーに。

チリンフィリンになって1年が経ち、おじいちゃんおばあちゃんから子連れファミリー、若者、お小遣いをもった小学生まで幅広いお客さんが訪れる場所となっています。

客層や立地、それに合わせたお店の立ち位置や提供メニューはおふたりで頻繁に話し合いながら、ユニークなお店づくりをされているそうです。

昼間に提供しているドリンクとプチパンケーキ
昼間に提供しているドリンクとプチパンケーキ

康生エリアにこだわった理由

物件はQURUWAエリアでもある康生で探していたそうですが、この地にこだわった理由は学生時代からの思い出が強く関係しているそうです。

僕らの中学校は田舎の方で、ガキの頃から来ていて。田舎者からしたら商店街があって個人店が多くて、華やかなまちだったんですよね。でもお店もだいぶ減っていたので、まちを盛り上げたくてこの辺でできたらなぁという想いはありました。

ACURAさん

今の物件にたどり着いたのは、ACURAさんの「BLUE RHYTHM COFFEE」の出店も快く受け入れてくださったMasayoshi Suzuki Gallaryの鈴木さんの紹介。もともとは「万年堂」という万年筆屋さんだったこの場所を、1度の内覧でお互いにとても気に入ったのだそう。

現在1階はカフェ、2階はレコーディングスタジオになっています。

元々、何処かに皆が集まったりネット配信が出来る場所や、地元から曲をリリースするレーベルがあったら、もっと面白くなるなと思っていました。お店を始める際に2階は物置きになっていたんですが、カジャさんが「好きに使っていいよ」と言ってくれたので、大工をしている後輩の協力の下、DIYでスタジオを作りました。実際に配信もレーベルも始動していますが、自身の歌声を音源データにして欲しい方から本格的なレコーディングをしたい方まで、誰でも気軽に使って欲しいです。

ACURAさん
2階レコーディングスタジオの一角
2階レコーディングスタジオの一角

また、チリンフィリンは篭田発展会という商店街に属しています。
商店街の良さをカジャさんはこう語ります。

商店街には人の繋がりの良さがありますね。もともと古着屋の事務所にいたときもお店のジャンルが全然違うけど、”この通りだから仲いい”というのがとてもいいなって思って。その後、康生もイオンができてちょっと寂れていたタイミングに僕も少し離れてしまったんですが、静岡の商店街で周りの商店のおじいちゃんおばあちゃんと仲良くしながら活躍する服屋さんを見て、こういう感じいいよなと思い出したんです。

カジャさん

昔を知っているからこそのジレンマ

しかしながら、康生エリアがまちの中心だった時代から約20年が経ち、今と昔をやはり比べてしまうとおふたりは語ります。

お店をはじめて、思ったよりこのエリアに人が歩いていないことに気づきました。昔は、平日でもお店の前に人がたくさん集まっていたりして。あの店はバイク好きの人たち、こっちのお店は古着好きの人たち、という感じで、高校生の溜まり場にもなっていました。

カジャさん

籠田公園でいろんなイベントがあれば、まちを歩いてくれる人が増えるんじゃないかと考えることは多いです。一方で、昔のように岡崎の違うエリアの方がお仕事や遊びで日常的に来てくれたらいいなと思いますね。

ACURAさん

昔通っていた康生にお店を構えたからこそ、見える現状。

日常に溶け込むために、ACURAさんのレゲエ色で尖りすぎず、まちにちょうどいいバランスを追求しつつもユニークなお店づくりに日々励んでいるそうです。

商店街でのちょうどいいバランスを保つために、とにかく路上に出て話すことを大切にしていると教えてくださいました。

大先輩ばっかりなんですよ、この通り(笑)。その中でもやっぱり井戸端会議を大切にしていますね。「どうですか、最近?」と近隣のお店の方とよく喋っています。そうすると、バー始めるときも少しうるさくなるけどいいですかね?と聞くと「全然!もっとガンガンいけよ!」と返してくれて。このまちのことを僕たちよりも良く知っているし、長く商売をやっている先輩なんでたくさん喋るようにしています。

ACURAさん

隣にお醤油を借りに行くような感覚で、両替がなくなったらお願いに行ったり、工具を借りに行ったりしています(笑)。もちろん、必要なものは近隣の商店で揃えるようにもしています。

カジャさん
商店街での様子を語る、カジャさん(左)とACURAさん(右)
商店街での様子を語る、カジャさん(左)とACURAさん(右)

点ではなく面で面白がれるまちに

最後に、これからのQURUWAに対する想いを伺いました。

せっかくいろんなお店があるので、昼間でも夜でもはしごできるようなまちになったら楽しいですよね。僕は中学生のときは古着ブームだったので、古着屋さんを回って、シビコに行って、映画を観て……とここら辺を攻めていたので。このまちのいいところは最先端な感じじゃないですけど、パッとできた新しい区画整理されたまちにはないような裏路地とか、まさかそんなとこにある中華料理屋とかのノスタルジックさなんですよね。とにかくまちをぶらぶらしてほしいです。

ACURAさん

「このお店に行こう!」というよりも「康生に行こう!」という人が増えたら嬉しいです。例えばですが、喫茶店でお茶している女の子はほぼ90%レゲエを聴いたことがないと思うんだけど、これだけ近い距離で同じまちにあるんだから、カルチャーがクロスオーバーしていくような感じが僕は面白いと感じています。

カジャさん

そうそう、ジャンルや店ごとにお客さんが固まるよりはごちゃ混ぜになった方が絶対面白くなっていきますよね。

ACURAさん

客を選ばない、それが逆に楽しいというか。子どもからしても、レゲエ音楽のようにすごい低音が響いてるみたいな、訳わかんないけど同じ空間にいるっていうのもひとつのコミュニケーションとして面白いですよね。

カジャさん

様々なジャンルの音楽や文化に気軽に触れられる場を増やすことに注力してきたカジャさんと、レゲエの世界に30年間いるACURAさんのおふたりのバランス感があるからこそ、今のチリンフィリンの形があるのだと感じます。

過去の経験を活かして

ACURAさんの所属するサウンドシステム制作チーム「FUJIYAMA SOUND」は今年で30周年を迎えます。

僕らも大人になってきたので、過去にルールに添ってやったから問題無いと思ってたイベントも、他の方には迷惑になってしまった、みたいな反省を踏まえて今まで通りではなく、オフィシャルで開催できたらと思いまして、市の後援のもと市民会館を借りて30周年のイベントをやることが決まっています。このまちが盛り上がればいいし、このまちにこんなやつがいるっていうのを知ってくれればいい。全国で活躍するアーティストを呼んでいるんで、普段聴かない人や若者や子どもにレゲエっていう音楽があるんだな、とか岡崎にもこういう文化が昔からあると感じて欲しい。それがまちおこしになるのかなと思うし。この年になってくるといろいろ経験を活かしてイベントを開催できるようになってきました。

ACURAさん

20年前は20代前半でほぼ何も考えてなくて、ただ楽しいことをしたいと思っていました。でも普通に大学卒業して就職した人には体験できないようなことを体験したいという気持ちはあって、いろいろ尖ったイベントのお手伝いをしてました(笑)  かっこいいものをかっこいいまま魅せたいという想いが勝ってしまって。今は自然体に”まちの中に在る”ことを意識しています。

カジャさん

岡崎で生まれ育ち、康生の移り変わりに自身のライフステージの変化とともに順応しつつ、常にプレイヤーとして挑戦しているおふたり。

今日も康生のどこかの路上でお喋りしているはず。見かけたらぜひ挨拶してみてくださいね。

路上で話すふたりの姿

石原 和也
1982年岡崎市出身。02年頃からアパレルブランド、イベントフライヤーなどのグラフィックデザインを始める。その後、教育事業「アンビシャス 」を展開。21年に「STAND CHILLIN’ FILLIN’」をオープン


金澤 輝
1983年岡崎市出身。学生時代にレゲエに出会い、「FUJIYAMA SOUND」に加入。2008年ジャマイカへ移住。13年に帰国後BLUE RHYTHM COFFEEをスタート。21年に「STAND CHILLIN’ FILLIN’」をオープン。

<STAND CHILLIN’ FILLIN’>
Instagram 
https://www.instagram.com/stand_chillinfillin

<FUJIYAMA SOUND>
HP
https://www.fujiyamasound.com/
Instagram 
https://www.instagram.com/fujiyamasound
執筆・撮影(特記なき場合):東友里(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2024.08.31