岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 村瀬亮さん

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師範通り沿いにある「Camping Office osoto Okazaki」は、新しいワークスタイルが体感できる総合アウトドアメーカーの「株式会社スノーピーク」のシェアオフィス・コワーキングスペース。室内にはアウトドア用品が並び、植栽や自然音が取り入れられ、まるでキャンプ場に来たかのようなワクワク感を得られる空間になっています。また、セレクトされた本が並び、外には生態系の循環を体感できるパーマカルチャーガーデンが広がる、人とまちがつながる地域の拠点になっています。 

この場を開くことで地域の方々とつながりができて、社員の学びにもなり、お互いにより良い関係性を築けるようになったそうです。

運営する株式会社スノーピークビジネスソリューションズは、スノーピークとIT(Internet Technologies:情報技術)コンサルティング会社の「株式会社ハーティスシステムアンドコンサルティング」との共同出資によって2016年に創業された会社です。2019年にはスノーピークの完全子会社となり、ITをベースにしたコンサルティングから、さらにテクノロジーとその反対にある自然から得られるものを企業に提案しています。そんなスノーピークビジネスソリューションズの代表取締役が、岡崎生まれ岡崎育ちの村瀬亮さんです。

Camping Office osoto Okazaki

IT企業でありながら、自然と地域とのつながりを重視

まずは自社から、IT技術とアウトドアの要素を掛け合わせた新しい働き方や豊かな暮らしを実践したいと考えていました。岡崎市は都市と中山間部のバランスが良くて、それができると思ったし、公共空間も豊かに使いたいと思っていたところで、QURUWA戦略が始まり、私たちの考え方に共感してくれた岡崎市が、この働き方を前向きに応援してくれて、今までさまざまな取り組みを一緒におこなってきました。ITだけでは地域に何ができるかが見えづらかったのですが、アウトドア用品があることで外に繰り出していきやすくなって、空間が変わると人の心理も変わるんだなというのを体感したことをよく覚えています。

村瀬さんがまず話してくれたのは、かつての籠田公園を今後どうしていくかに関する、市と市民との対話があったときのエピソードでした。

その日、午前中に会議室で対話がおこなわれていたときは、行政と市民との対立的な構造ができてしまっていたそう。ところが、午後に籠田公園にテントやタープを張った下で、みんなが車座になって対話をしたらすごく盛り上がり、午前中には怖い顔をしていた人もみんな笑っていたと言います。 外だとリラックスでき、日差しや風があって雑音も含めて自分の五感に刺激がある。そういうことも重要だと、自然と感じられた瞬間だったそうです。

パブリックとプライベートは別だと思う人もいるかもしれないけど、地域に関わると岡崎にいること自体にも意味が出てきます。社員の多くは会社と同じ地域で暮らしているから、地域を考えることは自分の暮らしを豊かにすることでもあるんです。それは、企業が事業で地域を豊かにすることが、自分たちの暮らしを豊かにすることと同じ。働くことは暮らすことの中の一部であって、分断されてはいないんです。地域とは必ず関わりがあり、全てはつながっているもの。豊かに生きるには、それが普通だと思えた方がいいと考えています。

ITコンサルティング企業を自ら立ち上げてスノーピークと出会うまで

ところで、村瀬さんが、自身のITコンサルティング企業と地域や自然をつなげて考えるようになり、 スノーピークと共に会社を起こしたのはなぜなのでしょうか。

何かがうまく行くときは、人が主体的に関わるきっかけや仕掛けがあるんです。自分が当事者になれば不満は課題に変わり、それを改善しようとするときに人は自ら動く、ということを10年勤めていた前職のハードウェア製造販売会社で実感しました。それで1999年に、私もITコンサルティング企業を立ち上げたんです。

そして今後の事業について考えていたある時、村瀬さんは、 当時抱えていた20人の社員を結束させるチームビルディング方法として「キャンプ」をすること思いつきました。「まずは自分1人で1週間キャンプをしながら仕事をしてみよう」と、キャンプ用品を買いに行ったときにスノーピークに出会ったそうです。

スノーピークのデザインや優れた機能・品質に惚れ込み、さらに会社について深く調べると、そのストーリーに感動したんです。その時は私自身ITコンサルティング企業の未来を考える中でモヤモヤしていたんですが、これからの道筋をどうするかもそのときに見えてきました。

そのときのことを村瀬さんはこう続けます。

ITを正しく使いこなすには人間性が健全で豊かであることが必要です。ITに振り回されないためにも、外の自然や地球環境をきちんと理解するITコンサルティング企業であるべきだと思ったんですね。いま資本主義としておこなわれる多くのアクションは、地球環境が豊かでないと実現しないから、地域や自然、環境を無視した企業成長はあり得ない。地球資源を無駄に使って疲弊させてしまえば、しっぺ返しが来るのは当たり前。そのことに多くの企業はまだ気づいていないのではないかと思ったんです。

村瀬亮さん

どうしてもスノーピーク現会長の山井さんに会いたくなり、実際に会って思いを伝えると、話が大きく動きます。ビジネスとして会社のみんなでキャンプをし、社員の意識改革にスノーピークのグッズを使っていることを説明したら「一緒に会社をつくろう!あなたがやったことをそのままいろいろな人に展開してはどうだろう」と言われたそう。村瀬さんは驚きましたが、チームビルディングをしてからITシステムを導入すると、そのシステムが定着し、運用がうまくいくということを体感していたので、お客様にもその大切さをずっと伝えてきました。

ITとはまったく別事業に見えるけど、軸は一緒なんですよね。ITの相談に来たクライアントに「ぜひキャンプをやってください」と言うことで、自分たちがやってきたことや大切にしていることをもっと伝えられるようになると思って、合弁会社をつくり、その後に子会社になったんです。

同じ思いでつながって交流する起点やハブに

乙川河川緑地

そうして2016年に生まれた株式会社スノーピークビジネスソリューションズは、2021年から殿橋と名鉄橋梁の間「乙川河川緑地(殿橋下流左岸)」を活用するための指定管理者をつとめています。そのおかげで、例えば週末には河川敷がキャンプ場として使えるなど、新たな乙川河川緑地の使い方ができるようになりました。

自分たちのコンテンツである「人が集って関係がつくりやすい空間をつくる」という特徴は、あの素晴らしい河川敷でも活かせると思ったんです。乙川は既にいろいろな方が暮らしを豊かにするために活動していたので、あくまでも自分たちはプラットフォームになりたかった。スノーピークの「自然と人、人と人をつなぐ」という理念があるということも重要で、それを大切にしたいと考えています。

村瀬さんは最後に、QURUWAにおけるこれからのビジョンをこう語ります。

皆さんと一緒にあらゆる人がつながる場とツールになりたいと思っています。例えば、QURUWA全体一周の豊かな雰囲気づくりの手伝いをして、そこで色々な人がチャレンジしている姿を想像しています。岡崎にはたくさんのプレイヤーがいるから、各々で動いている人がみんな同じ思いでつながって交流する起点やハブになれたら。スノーピークに惚れているから使ってみて欲しいという気持ちはあるけれど、ものがあればいいわけではない。自ら動く人が増えて、みんなでつくりあげることが大切だと思っています。

村瀬亮
愛知県岡崎市生まれ。株式会社キーエンスに10年務めた経験を活かし、IT企業を設立。ITを定着させるためには社員の関係性が最も重要であると考え、社員がいきいき働ける会社づくりに尽力する。2016年、 株式会社スノーピークと共同出資で設立した、株式会社スノーピークビジネスソリューションズの代表取締役に就任。自然の力とテクノロジーを健全に融合し、企業の人材問題を解決するためのサービスを提供している。2021年、 株式会社スノーピークの専務取締役に就任。

スノーピークビジネスソリューションズ
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文章:山崎翔子(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2022.05.31