岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:ROLE COFFEE 中村真悟さん・真規子さん

  • 事業を始める

愛知県岡崎市の「変わるまちなか」QURUWAエリアで、日々トライを続ける方々のお話を聞いていくシリーズ「あの人のトライ」。今回ご登場いただくのは、「ROLE COFFEE 岡崎康生店」を営む、バリスタの中村真悟さんとパティシエの真規子さん夫妻です。

おふたりは2017年に岡崎市に隣接する幸田町で「ROLE COFFEE」を、2021年には市内に2店舗目となる「unsung」をオープン。そして2025年9月、かつてこの地で約22〜23年前まで営業していた喫茶店「珈琲館杉浦邸」の建物を引き継ぎ、「ROLE COFFEE 岡崎康生店」として、再び命を吹き込みました。

「まちの一番店になる」——。 派手な新しさではなく、普遍的な価値を守り続けること。喫茶文化を次世代へ繋ぎたいと願う中村夫妻の想いを、同じくQURUWAエリアにある「Okazaki Micro Hotel ANGLE」の平良涼花が伺いました。

飼い犬を抱っこする真規子さんと、真悟さん。ROLE COFFEE 岡崎康生店にて

コーヒーとお菓子、
それぞれの原点

——まずは、おふたりの生い立ちから教えてください。

真悟さん:僕は岡崎市の隣、西尾市で生まれ育ちました。実家では日常的にコーヒーを飲む習慣があって、親が地元の自家焙煎店へよく豆を買いに行っていたんです。幼い頃からよく着いて行っていたのですが、そこには頑固そうなおじさんが焙煎をしている「大人の世界」がありました。その光景への憧れが、コーヒーに興味を持つ原点だったと思います。

真規子さん:私は横浜市で育ちました。あるとき、父の誕生日にアップルパイをつくったら、ものすごく喜んでくれて。父は私が高校生のときに亡くなってしまったのですが、そのときの嬉しさが、お菓子づくりを続けたいと思ったきっかけですね。

——真悟さんは、なぜコーヒーの道を選ばれたのですか?

真悟さん:高校卒業後は自動車系の企業で働いていました。転機は25歳の頃。「このままでいいのかな」と考え始めて、頭に浮かんだのがずっと好きだったコーヒーのことでした。

地元の焙煎所に話を聞きに行くと「コーヒー屋なんて儲からないよ」と言われましたが、当時の僕にとって収益よりコーヒー屋の風景そのものが魅力的で。その店主に縁をつないでいただき、2008年から名古屋市に隣接する東郷町のカフェでアルバイトを始めました。

——会社員と並行しながらのスタートだったのですね。

真悟さん:それ以来、コーヒーを本業にしたい気持ちが強くなり、愛知を離れて修行しようと関東・関西の店を調べて回りました。最初はどこも採用してくれなくて……。そんな中、たまたまスタッフを募集していたのが京都の「Unir」というお店でした。

採用が決まり、上司に退職を伝えたのは2008年の終わり頃。リーマンショックの真っ只中ということもあり、「こんな時期に辞めるのか!?」と驚かれましたね(笑)。

——真規子さんはどのような道を歩まれたのですか?

真規子さん:専門学校を卒業後、パティシエとして東京のお店に就職し、その後「知り合いのいないところでチャレンジしたい」と京都のパティスリーに転職を。大阪に住む親戚に、背中を押してもらいました。

——そこでおふたりは出会われたんですか?

真悟さん:彼女が就職したお店が、僕の働く店のコーヒーを扱っていたので、納品やコーヒーのトレーニングで対応するうちに親しくなりました。

当時を振り返る真規子さんと、真悟さん

ふたりで始めた「ROLE COFFEE」
周りに背中を押されて

—— お店を始めることになった決め手はなんですか?

真悟さん・真規子さん:決め手……。

真規子さん:実は、「お店を始めよう」と考えていたわけではないんです。2015年に結婚して西尾へ来てみたら、親戚や周囲が「夫がバリスタで、妻がパティシエなら、早くお店をやった方がいい!」と、私たち以上に盛り上がっていて。

真悟さん:親も「うちの子がお店を開きたいらしい」って、銀行や業者さんに話を広めてしまっていて(笑)。それなら……と、妻と相談して「じゃあ、やってみようか」と。

——1号店として、西尾ではなく幸田町を選んだのはなぜですか?

真悟さん:もともと幸田町に近い西尾市内で育ったので馴染みがあったのと、当時まだ町内にカフェが少なかったことが大きいですね。それと、ずっと通っていた自家焙煎のお店が西尾にあったので、その近くで開くのは失礼かなという思いもありました。

——開業にあたって、不安などはなかったのでしょうか。

真悟さん:不安というより、「なるようになっていた」という感覚です。僕たちの場合は、親身になってくれる方が「よし、俺が銀行に掛け合ってやるから」と動いてくださって。

商売の経験も信用もなかった僕たちを、周りの方々が助けてくれて。そのおかげで2017年に「ROLE COFFEE 幸田相見本店」を開くことができました。

ROLE COFFEE 幸田相見本店(提供:真悟さん)

「役割」という名前に込めた思い
自分たちらしさとは

——「ROLE COFFEE」という店名の由来を教えてください。

真悟さん:周囲から求められているのは、コーヒーやお菓子をつくって提供すること。それが自分たちの「役割(=ROLE)」なんだと気づいたんです。

世の中には星の数ほどコーヒーとお菓子を出すお店がある。その中で、「なぜ僕らでなければいけないのか」を考えたとき、お客さんに「あなたの淹れてくれたコーヒーが美味しかったよ」と感謝される瞬間が原動力だったと気づきました。

接客が苦手で、特別なスキルも取り柄もなかった自分にそう言ってくれた人がいた。だから僕は、コーヒーとお菓子を通して皆さんに貢献したい。

真悟さんが淹れる、ウインナーコーヒー(写真:fujico

—— その役割の中で、「ROLE COFFEEらしさ」があるのはどんなところでしょうか。

真悟さん:「荒削りな部分」を隠さず出すことですかね。

器用に立ち振る舞うのではなく、武骨でも拙い言葉でもいいから、やる。そういうスタイルだからこそ伝わることもあると思っていて。

真規子さん:私たちの「大雑把さ」というか(笑)。あんまり綺麗にまとまりすぎても自分たちらしくなくて。お客さんと3時間くらい喋り込んでしまって全然仕事が進まないこともありますが、それくらいの感覚でお店をやるのがちょうどいいなと思います。

珈琲館との出会い
50年前の喫茶店を引き継ぐ

——2021年にオープンした2号店「unsung」は、どのようなきっかけで開業したのでしょうか?

真悟さん:子どもが生まれたことが大きな転機でした。職場と住居を一緒にできないかと模索していたとき、岡崎の設計事務所「Yamamoto Space Design」の山本健悟さんが「自分が建てる建物の隣で、住みながらお店をやらないか」と声をかけてくださって。オープンはちょうどコロナ禍と重なったので、時代に合わせてテイクアウト専門店という形をとりました。

真規子さん:私が「unsung」で菓子製造を担当し、真悟さんが本店で焙煎をする。拠点を分けることで、それぞれの仕事に専念できる体制を整えました。

unsungの外観(提供:真悟さん)

——2025年9月にオープンされた「ROLE COFFEE 岡崎康生店」は、unsungを移転する形でのオープンでしたよね。

真悟さん:そうです。きっかけは、unsungをオープンして2年ほど経った頃、山本さんから「約22〜23年前まで営業していた喫茶店の建物を使ってくれる、コーヒー屋さんを探している人がいるらしいよ」と聞いたことでした。最初は「オープンして間もないし、お金もないし、僕には無理だろう……。」と思っていました。

——それが、かつての「珈琲館」だったのですね。

真悟さん:「珈琲館 杉浦邸」は、昭和10年頃に建てられた母屋に、1972年に喫茶店棟が増築されていて、岡崎市内で空襲の被害を免れた数少ない和風建築のひとつです。岡崎市出身の俳優・杉浦直樹さんのご実家としても知られています。

現在の母家(左)と、喫茶店棟(右)

珈琲館を営んでいた店主の姪にあたる竹内澄子さんが現在はこの建物を所有されており、「更地にしてマンションを建てませんか」「駐車場にしませんか」というDMが山ほど届いていたそうで。でも、竹内さんはそれらに一切返事をしなかった。

その中で、古き良き建物の保全に関心が高い、岡崎出身の一級建築士・小林洸至くんからの「この建物は絶対に残すべきです」という手紙が、何通も届いていたそうなんです。見ず知らずの若者からの熱烈なラブレターに、竹内さんも最初は「なんだ、この子は」と(笑)。そこから、珈琲館 杉浦邸の建物に再び命を吹き込もうという動きが始まったそうです。

珈琲館の店主。店内のカウンターにて(提供:真悟さん)

——竹内澄子さんの次女、純子さんはANGLEに宿泊したり、まちのお店にも足を運んだりされていて、このエリアの「古き良きものを残して、現代に合う形に活用していく意識」にとても感銘を受けていらっしゃった印象です。

真悟さん:古い建物を残すことは、お金も時間もかかる。竹内さんや小林くんをはじめ、関わる人たちの心意気で動いているプロジェクトだなと思います。

僕らもおふたりと話しているうちに、「この建物は残すべきだ」と強く思いました。それでunsungを移転する形で、この場所に「ROLE COFFEE 岡崎康生店」を開くことに決めたんです。

ROLE COFFEE 岡崎康生店の外観。茶色や橙色のモザイクタイルが一面に(写真:fujico

古い建物を残すということ
新しさより、普遍性

——内装はどのように決めたのでしょうか?

真悟さん: もともと「この場所を残したい」という想いから始まったので、今風にアップデートしすぎることはしたくなかったんです。それよりも、当時の姿を「復元」したいなと。

竹内さんに古い写真を見せてもらったり、どんなお客さんが来ていたのかを聞いたりしながら、「50年前からずっと営業が続いていたら」という姿をイメージして内装を決めていきました。

2階から見えるカウンター席。大きなカウンターテーブルは珈琲館時代から使われている(写真:fujico

—— 引き継ぐことへのプレッシャーはありましたか?

真規子さん:始める前は、「昔の雰囲気を知っているお客様が、若い子が始めた店を見てがっかりして帰ってしまうんじゃないか」という声もありました。

でも実際は、「昔はこうだったんだよ」「私、ここでお見合いしたの」と懐かしそうに話してくださって、そこからまたお友だちを連れてきてくれる方がとても多くて。

当時を知る大工さんや、かつてここで働いていた方からお話を聞ける機会も増えました。竹内さんにも「再開してよかった、あなたたちがやってくれてよかった」と言っていただけることが、嬉しいですね。

——ここを引き継ぐことは、おふたりの「役割」とも重なりましたか?

真悟さん:喫茶店文化も、キラキラした「今時」のものではないですよね。でも、昔からあるものを残していく文化は、今の時代にこそ絶対に必要だと思っていて。 

コーヒーやお菓子に向き合っていると、結局はフィナンシェのような「地味だけどずっと残ってきたもの」をつくりたくなるんです。そうした普遍的なものに魅力を感じ、つくり続けていく。それが僕たちの「役割」なんだと、この場所であらためて感じています。

店内のショーケースに並ぶ焼菓子(写真:fujico

——開業にあたって、お金の面での不安はなかったのですか?

真悟さん:1号店目を開業するときにもお世話になった方がまた動いてくださって。西尾信用金庫と日本政策金融公庫から借りることができました。それと、僕らの場合は不動産仲介を通さず、竹内さんから直接、建物を借りているんです。その分、費用を抑えられたところもあったと思います。

真規子さん:竹内さんや小林くんがとても良心的にしてくださって。「外の柵も塗った方がいいわね」と塗ってくださったり、下水管の工事もしてくださったり。建物まわりのことはほとんど竹内さんがやってくださったので、私たちは内装だけに集中できました。

まちの一番店を目指して

—— これから、どんなお店にしていきたいですか?

真悟さん: 最近、スタッフにも「まちの一番店になろう」と伝えています。 僕たちの考える「一番店」とは、規模が一番大きいとか、売上が一番ということではありません。何十年も続いているお店には、サービスの質やコミュニケーションの深さなど、数字では測れない「一番」の理由が必ずあると思うんです。

—— 数字での「ナンバーワン」を目指すのではない、と。

真悟さん: 簡単に言えば、誰かにとっての「オンリーワン」ですね。世界中の人が一番だと思わなくてもいい。うちに通ってくださるお客さまが、「ここが自分にとっての一番だ」と思ってくれれば、それでいい。そういう方を一人ずつ増やしていくことが、結果として「まちの一番店」に繋がるのだと信じています。

一杯ずつ丁寧に淹れるコーヒー

—— これから、おふたりはどのような役割を担っていくのでしょうか?

真悟さん: 僕たちの時代は、一度下火になった喫茶店文化を、形を変えながら引き継いでいくフェーズだと思っています。喫茶店という文化そのものが続いてほしい。

この場所の歴史の1ページとして、「かつての珈琲館をROLE COFFEEが引き継いで、当時はこんなことが大切にされていたらしい」と、いつか未来の若い子たちに思い出してもらえるような、そんな存在になれたらいいですね。

—— 派手に広げるのではなく、守り続ける。

真悟さん: 全く、派手にやろうとは思っていません。一番大事なのは、長い目で見て「継続」すること。どうすれば続けていけるかを、僕らもこの場所を通して学んでいる最中です。 

ただ新しいものをつくるのではなく、大切にされてきたものを残していく。それが、今の僕らの役割だと思っています。

—— 今日はありがとうございました。

真悟さん・真規子さん: ありがとうございました。

中村 真悟
Owner Barista

愛知県西尾市出身。自動車系企業勤務を経て、25歳でコーヒーの世界へ転身。京都の「Unir」で修行を積み、2017年に幸田町にて「ROLE COFFEE」を開業。2021年には岡崎市内に2号店「unsung」をオープン。2025年9月、築約90年の歴史的建築「珈琲館 杉浦邸」を引き継ぎ、「ROLE COFFEE 岡崎康生店」を開く。

2011〜2014年 Japan Barista Championship セミファイナリスト
2012年 Japan Latte Art Championship ファイナリスト(3位)
2024年 Japan Hand Drip Championship ファイナリスト(3位)

中村 真規子 
Patissiere

神奈川県横浜市出身。製菓専門学校卒業後、東京・京都のパティスリーに勤務。夫の真悟さんとともに、「ROLE COFFEE」「unsung」「ROLE COFFEE 岡崎康生店」の立ち上げ、運営をおこなう。

<ROLE COFFEE>
HP:https://role-coffee.com/
Instagram:https://www.instagram.com/role_coffee/
<ROLE COFFEE 岡崎康生店>
Instagram:https://www.instagram.com/rolecoffee_okazaki/

撮影(特記なき場合):Okazaki Micro Hotel ANGLE
取材・執筆:平良涼花

平良涼花 / Okazaki Micro Hotel ANGLE マネージャー
2002年生まれ、岡崎市出身。国内を転々とする多拠点生活を経て、地元岡崎市に根付く事業に取り組むため2021年からアングルスタッフに。アングルのコンセプトである「暮らし感光(観光)」をテーマに、イベント企画・運営や広報などを担う。

公開日:2026.03.31