岡崎の変わるまちなか「QURUWA」と何する?

あの人のトライ:小料理屋 エキュメ(écumer)石川英恵さん

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愛知県岡崎市籠田町に位置する「小料理屋 エキュメ(écumer)」。アンティークな雰囲気の店内とフランス風小料理が楽しめるエキュメは、2014年にオープンしてから2023年の8月で9年目を迎えます。

まちの一部であり続けながら、市外からも熱狂的なファンをつくり続けるのがエキュメの魅力です。今回は、エキュメの店主石川英恵さんにこの場を選び、感じてきたまちの変化についてお話をお伺いしました。

「ここを選んで良かった」思い切り表現できるしがらみないまち

元クリーニング屋を改装し、やや昔の雰囲気が残る外観

昭和60年生まれ、現在37歳の石川さん。

もともと野望は秘めるタイプ。石川さんは「いつか、いつかお店をオープンするぞ…」と10代から野心を燃やしていたといいます。石川さんが考えていた「お店」は、フランス映画を漂わせる日常と非日常が入り混じる空間です。

では、エキュメにはどのようなコンセプトがあるのでしょうか?

南フランスの定食屋さん。フラットな立ち位置でお客さんに寄り添える場所。日常に寄り添う非日常空間…うーん、どれだろう……。

石川さんは、笑みをこぼしながら「決めきれない。あえてコンセプトを考えたことがないかもしれないですね」といいます。

「来たらわかる」という感覚。あえて言葉にしないのもいいかもしれないです。でもお客さんには映画の一部に溶け込んだような「エキュメでランチを食べている自分、ちょっと絵になるかも?」って、空間に酔える場所を提供したいと考えています。

アンティークが使われていてかっこよくも落ち着く内装

フランス映画のけだるい、人間臭い感じが大好きだと語る石川さん。フランス人特有の、憂いを少し纏った雰囲気に惹かれたそうです。一方、南フランスの陽気で明るく、美しい風景も魅力的だと語ります。

フランス映画で表現されている日常と非日常が入り混じる空間。そんな空間の中で、人間ドラマが繰り広げられる日々をエキュメは体現しています。

個性の無さに悲観していた高校生が「仕事も子育ても両立する母ちゃん」になるまで

明るく陽気な印象を持たれることが多い石川さんですが、高校生までは自分の個性の無さにうんざりしていたそうです。

「自分って本当に大したことないな…」「つまらない子だな」と、自分自身を悲観していました。そんな時になんとなく料理に出会って。本来そのままでは食べられないものを、おいしく食べられるものに変えてしまう魔法のような「華やかな料理の世界」が当時の私には新鮮でした。五感全てを使って自分だけの世界観をつくりだす料理に虜になり、高校生で料理の道に進むことに決めて。食物調理科のある高校に進学しました。

高校生で料理の道に進むと決めてからは、例えアルバイトであっても妥協しません。石川さんは真っ直ぐな瞳で「昔から変なところが苦労性で、やると決めたことはとことん突き詰めます」と語りました。石川さんにとって、学生時代のアルバイトは人生のターニングポイントとなったそうです。

高校時代にアルバイトをさせてもらった居酒屋の料理長からは「自分の仕事が終わるまでが仕事」と言葉をかけてもらって、「料理人のあるべき姿」を教えてもらいました。専門学生時代に働いていたイタリアンレストランのアルバイト先では、素晴らしい料理を繰り出す料理人の方に「仕事は遊び、遊びは仕事だよ」と教えてもらい、今でも自分の胸に刻まれています。

週替わりの肉と魚が選べる人気のビストロランチ

しかし、何事においても真っ直ぐな性格が仇となることもありました。エキュメをオープンする前に働いていたカフェでは、身も心もボロボロになってしまったそうです。

私、組織の中に入ると、会社の繁栄のために、死にもの狂いで頑張ってしまうんです。忠誠心や負けず嫌い、認められたい気持ちなどいろいろあると思いますが、まるで飼い犬のワンちゃんみたいに忠実になってしまうんですよね。

店舗に立って珈琲を淹れている時に倒れてしまうことも度々あったと語る石川さん。そんな石川さんを見かねて、当時の仲間が「自分でお店をやりな?」と声をかけてくれたとのこと。石川さんは「自分のお店が欲しい」と思っていたので、踏ん切りがついたそうです。

今は子どもがいるので、体を壊せません。子どもができてからも頑張りすぎてしまう傾向が抜けませんでしたが、自分が熱を出して子育てが疎かになった時に変わろうと決心しました。子どもは私の生きがいなので、彼に過度の寂しい思いをさせたくはありません。無条件に自分を愛してくれる尊い存在です。

それでも仕事も大好き。石川さんは仕事も子育ても譲れないと語ります。

「母ちゃんは自分の仕事をして、楽しく生きているよ」ってことを子どもに伝えたいです。だからこそ自己管理を徹底しています。「徹夜作業など無理をした後はセーブしよう」と、自分で調整ができるのは、自営業の利点です。

紆余曲折あった物件探し…「なぜこのまちを選んだのか」

お店をオープンするとは決めたものの、物件探しはうまくいかなかったと語る石川さん。

1日中車を走らせて、蒲郡から名古屋、岡崎と2ヶ月間物件を探しました。自分の中では「公園と緑の近くでお店を出したい」という思いがあったので、自分の足でロケーションを確認していました。

初めて今の物件を見たときは「いや、広すぎる…」と思って諦めたとのこと。しかし、物件探しは難航。藁にもすがる思いでOKa-Biz(オカビズ)に相談に行ったそうです。

OKa-Biz(オカビズ)さんもこの物件を紹介してくれて。「え?いいの?」って素直に喜びました。内装を担当してくださった、今は亡き建築デザイナーの岩瀬さんもご紹介いただいて、とんとん拍子で内装が進みました。岩瀬さんに「広すぎてこの店舗抵抗ありました…」と相談したら、「そんなの仕切っちゃえばいいじゃん!」と言ってもらえて、心が軽くなったことを覚えています。

昔の間取りを上手く活かした素敵な内装

この物件を決めてからは、2ヶ月ほどでお店をオープンできたと続ける石川さん。

物件探しのためにいろいろな土地を回りましたが、このまちが良かったんです。人のあたたかさを感じられますよね。」そう語る石川さんですが、岡崎に来た当初はやや排他的な文化を感じるときもあったそうです。

岡崎の人って、出会う人に「どこ中?」って聞く文化があると思うんです。名古屋から来た私にとっては、よそ者として扱われている疎外感がありました。でも、一度仲良くしてもらえると横のつながりの強さを感じました。

「よりこの輪の中に入りたい」このまちの文化を知る中で、そんな思いが石川さんの中に湧いてきたそうです。

個人プレーではなく、チームプレー。自分のお店の仕事が終わったら、知り合いのお店をはしごする文化。お客さんを取り合うのではなく、みんなでまちをつくっている感覚に強い憧れを感じていました。

これからも大切にしたいのは「まちの一部でいること」

最後に石川さんから、QURUWA全体の変化や今後の展望を伺いました。

常に「まちの一部にいるこの感覚を大切にしています。QURUWAでお店を開くということは、どれだけまちに溶け込めるかが鍵ではないかと思っています。常に、商売をさせていただいている気持ちを大切にしていますね。

元々は何もなかった荒れた大地だった籠田公園。石川さんは寂れた雰囲気も好きだったようですが、QURUWA全体の変化を結果的にはポジティブにとらえているそうです。

QURUWA全体が変化したことで、さまざまな人がこのまちに注目してくれるようになりました。「このまちでお店を出したい」と周囲から憧れを持たれるまちに変わりましたね。最初は木を切ってしまうことやステージがなくなることへの反対意見がたくさんありました。しかし、今は昔から商売をしている人も好意的にとらえてくれています。それだけでなく、ただの公園が色んなことを発信できる場所になったと思います。

ただ、自分のスタイルを変えるつもりもないと語る石川さん。「まちの定食屋としての姿勢を貫きながら、見守っていきたい」。石川さんは、自分の人生と籠田公園周辺が共に成長している一体感も感じているそうです。

エキュメはこれからも、「まちの定食屋」であり続けたいです。高みを目指しているのは自分のお腹の中だけで良くて。お客さんが来店する心持ちに対しての敷居は低く、サービスも肩の力が入りすぎない気楽な場所。仕事の合間に寄れるような、日常に限りなく近い非日常であり続けたいと思います。

市外から移住し、慣れない環境でお店をオープンした石川さん。物件探しにも苦労をしたものの、エキュメは今では籠田公園のシンボルになっています。

「まちの一部であり続ける」石川さんの活動には、地方で頑張りたい人にとっての、さまざまなヒントや可能性がちりばめられていました。

石川英恵
1985愛知県名古屋市出身。高校から、食物調理科に入学し、その後調理専門学校を卒業。愛知県内のフランス料理店、バー、カフェ、和食店などの飲食店で勤め、2014年に岡崎市籠田町にて小料理屋 エキュメ(écumer)を開店。

文章:八巻美穂(フリーランスライター)
写真:飯田圭(Okazaki Micro Hotel ANGLE)

公開日:2023.04.29